深掘りQ&A: 気候科学に関するIPCCの第6次評価報告書
国連の「気候変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate Change; IPCC)は、今後の気候科学の基礎となる、第6次評価報告書(6th assessment report; AR6)の最初のパートを発表しました。
この報告書は、気候変動の「自然科学的根拠」をまとめたもので、14,000件以上の査読付き論文から得られた知見を集約しています。
執筆者らは、人間が地球を温暖化させ、海洋、氷、陸域に「広範かつ急速な」変化をもたらしたことは「疑う余地がない」と結論づけています。彼らは、気候システムの多くの部分の現在の状態は、「数百年から数千年にもわたって前例がない」と警告しています。
これらの変化の多く(特に海洋、氷床、全球海面水位)は「不可逆的」であると執筆者らは述べています。また、南極氷床の急速な融解や森林の枯死など、急激な変化や「ティッピングポイント(臨界点)」も「排除できない」としています。
IPCCの前回の評価報告書(2013-14年)以降の重要な進展として、人為的な温暖化と深刻化する極端気象との関連性が強まっていることが挙げられると執筆者らは述べています。これはもはや「確立された事実」であると彼らは書いています。
IPCCの執筆者であるレディング大学のEd Hawkins教授は記者会見で、「私たちはすでに、より頻繁でより極端な気象現象を含む気候変動を経験しています」と述べ、「温暖化が少し進行するたびに結果は悪化し続け、これらの結果の多くは後戻りできません」と付け加えました。
報告書によると、ほぼすべての排出シナリオにおいて、地球温暖化は「2030年代前半」に1.5℃に達すると予想されています。また、CO2排出量を「ネット·ゼロ」にするとともに、他の温室効果ガスを「大幅に削減」しなければ、気候システムは温暖化し続けることになります。
このような「悪いニュース」にもかかわらず、IPCCの執筆者であるリーズ大学のPiers Forster教授は、近い将来の排出量削減によって「前例のない温暖化の速度を本当に減らすことができる」と「確信」していると述べています。さらに、次のように述べています。
「この報告書は、地表の温度を安定させる、あるいは下げるためには、ネット·ゼロが有効であることを、科学的かつ頑健な方法で示しています。」
以下の詳細なQ&Aでは、Carbon Briefが報告書の主要な結論を解き明かし、IPCCの前回の評価以降の進歩と発展について説明しています。各セクション間の移動にはリンクをご利用ください。
- どんな報告書なのですか?
- 地球の気温はどのように変化していますか?
- 今後、地球はどのくらい暖かくなるのですか?
- 温暖化が 1.5℃に達するのはいつですか?
- 雨の降り方はどのように変化しているのでしょうか?
- 温暖化は世界の雪や氷にどのような影響を与えているのでしょうか?
- 海洋の変化についてはどのように書かれていますか?
- AR5 以降、海面上昇の見通しはどのように変化しましたか?
- 人間が及ぼしている影響について、報告書はどのように述べていますか?
- 報告書では、急激な変化や「ティッピングポイント」についてどのように述べてい ますか?
- 大気汚染は地球の気温にどのような影響を与えるのでしょうか?
- AR5 以降、気候感度の推定値はどのように変化しましたか?
- 報告書では、残余カーボンバジェットについてどのように述べられていますか?
- 「ネット・ゼロ」についてはどのように述べられていますか?
- 極端気象はどのように変化していますか、そして気候変動はどのような役割を果たしているのでしょうか?
- 気候変動のリスクは世界各地でどのように異なるのですか?
§ どんな報告書なのですか?
今回の報告書の前に、IPCC は 1988 年の設立以来、5 つの「評価報告書」を発表していま す。 それぞれの報告書は、「気候システムの変化を示す急速に蓄積された証拠を、包括的に かつ一貫して提示している」と新報告書は述べています。
前回の第5次評価報告書(5th assessment report; AR5)は2013-14年に発行されました。 (Carbon Briefの記事はこちら) 2015年10月、IPCCは韓国の経済学者であるHoesung Lee教授を新しい議長に選出し、Lee教授が第6次評価「サイクル」に向けてIPCCをリードしました。
従来通り、AR6 に対する IPCC の取り組みは、3 つの「作業部会(working group; WG) 」に分かれています。
- 第 1 作業部会(WG1):自然科学的根拠
- 第 2 作業部会(WG2):影響、適応、脆弱性
- 第 3 作業部会(WG3):気候変動の緩和策
2017年9月、IPCCは3つの作業部会すべての報告書のアウトラインを合意しました。そして2018年4月、IPCCは選ばれた執筆者を発表しました。全員がボランティアで活動している合計700人以上の執筆者です。
I am very pleased to announce that the new outline of the @IPCC_CH WGI report for the #AR6 has just been approved! pic.twitter.com/WQH1rxiyhC
— Dr Valérie Masson-Delmotte (@valmasdel) September 10, 2017
今回のWG1レポートは、その第一弾として発表されたものです。当初は2021年4月に予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる混乱のため、発行日が延期されました。
IPCCは、WG1報告書の目的を「気候変動の物理科学に関する現在の証拠を評価し、物理的、化学的、生物学的な気候プロセスだけでなく、観測、再解析、古気候アーカイブ、気候モデルシミュレーションから得られた知識を評価すること」としています。
本報告書には、12の主要な章と、オンラインのインタラクティブな「アトラス」が含まれており、これは「世界および地域の気候変動に関する観測と見通しの斬新な要約」です。報告書は全体で約3,000ページに及び、14,000以上の科学論文を参照しています。
AR6サイクルでは、3つのドラフトが専門家や政府によってレビューされました。合計で7万件以上のコメントが寄せられています。
本報告書が完成すると、最後のステップとして、政府代表団による政策決定者向け要約(summary for policymakers; SPM)の一行ごとの合意が行われました。この承認のための会議は、この2週間にわたり、初めてリモートで行われました。
How are discussions on the @IPCC_CH Working Group I contribution to the Sixth Assessment Report structured, you wonder?
— Earth Negotiations Bulletin (@IISD_ENB) July 27, 2021
Here’s a short thread 🧵:
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WG2とWG3の報告書は、それぞれ来年2月と3月に発行される予定です。その後、2022年9月に3つの作業部会の成果をまとめた「統合報告書」を発行する予定です。
IPCC が発行するのは評価報告書だけではありません。第 6 次評価サイクルでは、3 つのテ ーマについて短い「特別報告書(special report; SR)」も発表しています。
- 1.5℃特別報告書(Global warming of 1.5C;「SR15」)2018年公表
- 土地関係特別報告書(Climate change and land;「SRCCL」)2019年公表
- 海洋·雪氷圏特別報告書(The ocean and cryosphere in a changing climate;「SROCC」)2019年公表
(さらにIPCCは、国家温室効果ガスインベントリのガイドラインに関する2019年の「方法論報告書」を発表しています。)
さらに前の2012年に発表された極端現象に関する特別報告書(SR on extreme events;「SREX」)と同様に、これらの特別報告書は、AR6報告書全体を通して頻繁に参照されています。
AR6 WG1レポートでは、第6次結合モデル相互比較プロジェクト(6th Coupled Model Intercomparison Project; CMIP6)の一環として作成された最新世代の全球気候モデルの出力を使用しています。CMIP6は、世界中の数十のモデリンググループが作成した約100種類の気候モデルによる「ラン」から成る協調的な取り組みです。(本報告書では、AR5以降で広く使用されているCMIP5の出力も使用しています)
報告書によると、モデルのシミュレーションには、「共通社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways; SSP)から派生した新しいシナリオ群」を使用しています。SSPは当初、「将来の社会経済的発展に関する5つの幅広い叙述」を記述するために開発されたと報告書は説明しています。
その後、SSPの叙述と駆動要因は、「統合評価モデル(integrated assessment models; IAM)を用いて、エネルギー使用、大気汚染防止、土地利用、温室効果ガス(greenhouse gas; GHG)排出の発展に関するシナリオを作成するために使用された」と報告書は述べています。
現在、SSPという用語は、これらの最終的に作られたシナリオを参照するものとして「より広義に」使われており、「各シナリオが21世紀末に至るおおよその放射強制力のレベル」によって分類されていると執筆者は述べています。
下の図は、SSP(列)と強制力レベル(行)の組み合わせを示していますが、各社会経済経路ですべての強制力レベルが可能なわけではありません。この図には、AR5で使用された「代表的濃度経路」(Representative Concentration Pathways; RCP)も示されています。これらはSSPと「直接比較できない」と報告書は述べています。
白い文字で書かれた最終的な SSP は、5 つの例示的な SSP シナリオのコアセットを示して
おり、「2100 年までの気温上昇の最良推定値が 1.5℃以下から 4℃以上まで取りうる、妥当
性のある社会および気候の将来像の広い幅」を抑えています。
- SSP1-1.9:温暖化を「わずかなオーバーシュートの後」2100年に1850-1900年比で約1.5℃に抑制し、今世紀半ば頃にCO2を正味ゼロにすることを想定している。
- SSP1-2.6: 温暖化を2℃未満に抑制し、今世紀後半にはCO2排出量を正味ゼロにする
- SSP2-4.5:パリ協定に基づく削減目標の上限にほぼ一致する。このシナリオは、「気候政策の追加なし」の参照シナリオから穏やかにそれており、その結果、最良の見通しでは21世紀末までに約2.7℃の温暖化が起こる。
- SSP3-7.0:追加的な気候政策を行わなかった結果、「高いエアロゾル排出を含む、特に高い非CO2排出」を伴う中位から上位の参照シナリオ。
- SSP5-8.5:追加的な気候政策を実施しない場合の高水準の参照シナリオ。SSP5-8.5のような高い排出量は、化石燃料を使用するSSP5の社会経済発展経路においてのみ達成される。
今回の報告書では、AR5 が記載した記述の確実性のレベルを伝えるために使用した「調整 された用語(calibrated language)」と同じものを使用しています。これらの用語は 2 つのカ テゴリーに分類されます。
- 確信度:「証拠の種類、量、質、整合性、および見解の一致度に基づく、知見の妥当性 の定性的な尺度」。
- 可能性:「観測結果やモデルの結果の統計的解析、またはその両方、執筆者チームによ る専門家の判断、または専門家の見解に関する正式な定量的調査、またはその両方」に基づ いて、「知見の不確実性を確率的に表現した定量的な尺度」。
これらの確信度と可能性の記述は、下の図に記載されていますが、報告書やこの記事でもイ タリック体で表示されています。
AR6 の知見の確実性の度合いの評価と伝達
§ 地球の気温はどのように変化していますか?
AR6 WG1レポートでは、地球の温度がすでにどの程度上昇しているか、また温室効果ガスを中心とする「気候変動の要因」がどのようにこの変化をもたらしたかについて、最新の評価を行っています。
報告書に盛り込まれている情報には、陸や海から集められた最新の観測データ、人工衛星による遠隔測定、地球の気候の長期的な変化を示す気候プロキシ(代替指標)から得られたデータなどがあります。
本報告書では、新規および修正されたデータセットを考慮し、地球温暖化の評価に使用される指標の再評価を行っています。
また、近年の記録的な温暖化についても考察されており、2015年から20年までのすべての年が、記録が残っている過去のどの年よりも温暖であった可能性が高いことが指摘されています。現在のところ、2021年も記録的な暑さとなった7年のうちの1つになると考えられています。
下の地図は、過去40年間(下)では、その前の80年間(上)と比較して、温暖化の速度が加速していることを示しています。
AR6では、過去のIPCC評価サイクルと比較して、全体的に気温が急速に上昇していると結論づけています。
このことが書かれている報告書の第2章では、エルニーニョやインド洋のダイポールモード現象など、気候を変化させる自然現象を意味する「変動モード」の変化についても調査しています。
報告書では、次のように高い確信度で述べています。
大気、海洋、雪氷圏、生物圏で観測された変化は、世界が温暖化していることを示す 明白な証拠である。過去数十年の間に、気候システムの主要な指標は、数百年から数千年の 間に見られなかったレベルにまで上昇しており、少なくとも過去 2,000 年では前例のない 速度で変化している。
具体的には、産業革命前の基準期間である1850-1900年の間と、直近の2011-20年の10年間で、世界平均地上温度(global mean surface temperature; GMST)が1.09℃上昇しています。これは、およそ12万5千年ぶりの暖かさである可能性がどちらかといえば高いです。
報告書から引用した下の図は、4種類のデータセットによる1850年以降の世界の地表平均気温と、10年ごとの平均値を示したものです。
上の図は、この期間に1.59℃上昇した陸地の気温上昇が、0.88℃上昇した海洋の気温上昇よりも速いことを示しています。2020年に発表されたCarbon Briefのゲスト投稿では、この乖離の理由が説明されています。
全体として、AR6では、1850-1900年と1986-2005年の間の気温上昇が、AR5に比べて0.08℃大きいと推定されています。
これは主に、過去8年間に行われた「データセットの革新」によるもので、海水温の測定方法の歴史的変化をよりよく考慮し、より包括的に世界をカバーしていると報告書は説明しています。
(Carbon Briefは2017年に、データ調整が世界の気温記録にどのような影響を与えるかについての解説記事を掲載しました)
これらの観測データセットの更新は、残余カーボンバジェットと、温暖化がパリ協定の閾値 である 1.5°Cと 2°Cを突破すると予想される年に影響を与えます。(参照: 温暖化が 1.5°Cに 達するのはいつですか?)
しかし、報告書では、この温暖化推定値の上昇は、「過去の気候影響の評価に影響を与える ものではなく、また、見通される気候影響がより早く発生することを一般的に意味するもの でもない」と指摘しています。
そうではなくて、結果として生じることは、個別の影響に紐付けられる温暖化のレベルの上 方修正であり、報告書では次のように説明が加えられています。
AR5 よりも 0.08°C大きいと推定された温暖化により、これまで 1.5°Cの温暖化に紐 付けられていた将来の影響は、1.58°Cの温暖化に紐付けられる。
報告書では、地球温暖化の主要な指標の違いについても分析しています。
GMST は、観測に基づく過去の記録を議論する際に用いられる標準的な指標です。GMST は、気象観測所で観測された地表面の気温と、ブイや船を使って測定された海面水温(sea surface temperature; SST)を組み合わせて算出されます。
気候モデルで一般的に使われている地球表面気温(global surface air temperature; GSAT) とは微妙に異なります。GSAT も地表面の気温をベースにしていますが、これに海水そのも のではなく、海水上の空気の温度(「海洋大気温度」または「marine air temperature; MAT」) を組み合わせたものです。
この2つの指標は密接に関連していますが、「物理的に異なる」と報告書は指摘しており、その意味は「AR5以降に明らかになってきた」としています。例えば、「MATとSSTは、数十年規模のトレンドと経年変動のパターンが異なる」ことが示されています。
執筆者らは、「GMST と GSAT の長期的な変化は、どちらかの方向にせいぜい 10%程度の 差しかない」という高い確信度があるとしています。しかし、「モデルと直接観測から得ら れた相反する証拠と、理論的理解の限界から、長期的なトレンドの違いの符号に対する確信
度は低い」と付け加えています。その結果、「GMST と GSAT の長期的な変化は現在のと ころ同一であると評価されており、GSAT の推定値の方が不確実性は大きい」としていま す。
AR5 では観測された変化に GMST を、将来見通しに GSAT を用いていましたが、AR6 で は「このアプローチに 3 つの変更」を加えており、執筆者は以下の通り説明しています。
第一に、AR6 では改善された観測記録が使用されている。第 2 に、最近の過去の基 準期間を 1986-2005 年から 1995-2014 年に更新し、第 3 に、将来の見通しとの整合性をと るために、過去の推定値を GMST ではなく GSAT で表現している。
温暖化をもたらす温室効果ガスについては、CO2、メタン、亜酸化窒素の濃度が「百年単位 の時間スケールでは、少なくとも過去 80 万年の間に前例のない速度で増加している」とし ています。
大気中の CO2 濃度は、少なくとも過去 200 万年間で最も高くなっていると、高い確信度で 指摘しています。
また、産業革命以前からの太陽や火山活動の変化などの自然要因による有効放射強制力(effective radiative forcing; ERF)の変化は、人為的な要因に比べて「無視できる」ものであると、非常に高い確信度で述べています。(参照:人間が及ぼしている影響について、報 告書はどのように述べていますか?)
下の図では、ピンク、茶色、青緑色の線が、それぞれ温室効果ガスであるCO2、メタン、亜酸化窒素の濃度上昇によるERFの上昇を示しています。
青色の線は、同じく温室効果ガスであるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などのハロゲン系ガスがもたらす温暖化の影響を示しています。HCFCは、冷凍や発泡体の製造などの産業活動で発生するガスです。
オゾンのようなその他の寿命ガスも、小さいながらも正の ERF を持っています。
図中のグレーの線は、エアロゾル(大気汚染の原因となる粒子で、太陽光を反射して地球を 冷やす効果がある)の影響を示しています。
報告書によると、全体として、太陽光を反射する粒子を大量に生成する大規模な火山噴火の 後に短期間でマイナスになることを除けば、産業革命以前から ERF はプラスで増加してい ます。
AR6 では、主に CO2 排出量の増加が原因で、過去 30 年間に変化率が高まった可能性が高 く、さらにエアロゾルによる冷却効果の低下も影響している可能性がどちらかといえば高 いと結論づけています。
§ 今後、地球はどのくらい暖かくなるのですか?
AR6 では、排出量が急速にゼロになるか、それとも増加し続けるかによって、今世紀末ま でに地球は産業革命以前より 1.4〜4.4°C暑くなると結論づけています。
報告書にはこう書かれています。
世界の温室効果ガス排出量を急速かつ大幅に削減することで、地表面温度の上昇とそ れに伴う変化を抑制できることはほぼ確実である。
AR5 と比較して、AR6 では、温暖化がどれくらい進むかを検討する方法にいくつかの重要 な変更があります。これにより、AR6 では、同じような排出シナリオであれば、全体的に温 暖化がやや進むと見通していますが、不確実性の範囲は狭くなっています。
AR6 では、2011-20 年の 10 年間は、1850-1900 年の期間よりもすでに 1°C以上暑く、過去 およそ 12 万 5 千年の期間で最高の暑さである可能性がどちらかといえば高いと断言してい ることが、今後の温暖化の出発点となっています。(参照:地球の気温はどのように変化し ていますか?)
さらに報告書は、「非常に低い排出量のシナリオ SSP1-1.9 の場合でも、過去の 10 年間は今 世紀の残りの期間を通じた気温よりも低くなる」と述べています。
さらに、CO2 をはじめとする温室効果ガスの排出量を迅速かつ大幅に削減しない限り、パリ 協定の 1.5°Cと 2°Cの制限値を突破するだろうとしています。また、たとえ大幅な排出削減 が行われたとしても、温暖化は今世紀半ばまで続くとしています。
AR6 の SPM では、次のように述べています。
地球の表面温度は、検討したすべての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ば まで上昇し続ける。今後数十年間で CO2 などの温室効果ガスの排出量を大幅に削減しなけ れば、21 世紀中に 1.5°Cおよび 2°Cの地球温暖化を超えるだろう。
しかし、報告書は、今世紀中にどの程度の温暖化が起こるかについては、まだ選択の余地が あることを明確にしています。(参照:「ネット・ゼロ」についてはどのように述べられてい ますか?)
具体的には、「温室効果ガス排出量が非常に少ない」SSP1-1.9、「少ない」SSP1-2.6、「中間」 SSP2-4.5 から、「多い」SSP3-7.0、「非常に多い」SSP5-8.5 までの 5 つの「コア」排出シナ
リオを通じて、「可能な気候の未来」を探っています。(参照:どんな報告書なのですか?)
それぞれのシナリオで見通される温暖化量は以下のグラフのとおりです。最も排出量の少 ないシナリオ SSP1-1.9(水色の線)では、2081-2100 年に 1850-1900 年比で 1.4°C上昇す るのに対し、SSP5-8.5(濃い赤色)では 4.4°C上昇しています。
報告書によると、最も排出量の少ない SSP1-1.9 シナリオでは、2081-2100 年までに温暖化 が 1.0〜1.8°Cになる可能性が非常に高く、中間シナリオの SSP2-4.5 では 2.1〜3.5°C、SSP5- 8.5 では 3.3〜5.7°Cになるとしています。
2021-40 年、2041-60 年、2081-100 年の 20 年間の温暖化見通しの全容を以下の表に示しま す。中心となる「最良推定値」と「可能性が非常に高い範囲」を、各期間、各排出シナリオ に分けて示しています。
短期, 2021-2040 | 中期, 2041-2060 | 長期, 2081-2100 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
シナリオ | 最良の推定値 (°C) | 可能性が非常 に高い範囲 (°C) | 最良の推定値 (°C) | 可能性が非常 に高い範囲 (℃) | 最良の推定値(℃) | 可能性が非常 に高い範囲 (℃) |
SSP1-1.9 | 1.5 | 1.2~1.7 | 1.6 | 1.2~2.0 | 1.4 | 1.0~1.8 |
SSP1-2.6 | 1.5 | 1.2~1.8 | 1.7 | 1.3~2.2 | 1.8 | 1.3~2.4 |
SSP2-4.5 | 1.5 | 1.2~1.8 | 2.0 | 1.6~2.5 | 2.7 | 2.1~3.5 |
SSP3-7.0 | 1.5 | 1.2~1.8 | 2.1 | 1.2~2.8 | 3.6 | 2.8~4.6 |
SSP5-8.5 | 1.6 | 1.2~1.9 | 2.4 | 1.3~1.9 | 4.4 | 3.3~5.7 |
SPM はさらにこう記しています。
地球の表面温度が 1850-1900 年に比べて 2.5°C以上の上昇を維持したのは、300 万年 以上前のことである(中程度の確信度)。
この報告書では、さまざまな排出シナリオの下で、1.5°Cの温暖化限界がいつ破られるのか、 あるいは破られるか否か、を詳細に検討しています。(参照:温暖化が 1.5°Cに達するのはい つですか?)
AR6の重要な革新点は、温暖化見通しが「初めて」、過去および最近の温暖化傾向の観測結果を含む複数の証拠に基づいて行われたことです。これまでのIPCCの見通しは、すべて気候モデルに基づいていましたから、これは大きな変化です。
R6の「評価された温暖化」見通しは、最新のCMIP6気候モデルと、報告書の最新の気候 感度推定値の組み合わせに基づいています。(参照:AR5 以降、気候感度の推定値はどのよ うに変化しましたか?)
具体的には、評価された温暖化は、歴史的な温暖化傾向を正確に再現できる CMIP6 モデル の部分集合と、気候モデルから得られたものではない「平衡気候感度」の推定範囲に基づく 見通しを組み合わせたものです。
報告書では、将来の温暖化を評価するために用いられた複数の証拠が「一貫した結果」を生 み出していることから、その見通しには高い確信度があるとしています。
報告書では、CMIP6 モデルは、従来の CMIP5 モデルに比べ、「気候変動の大規模な指標の ほとんど」を高い確信度でよりうまくシミュレートできると説明しています。
これは、「物理的、化学的、生物学的プロセスの表現が新しくなったり改善されたりしたこと、および解像度が向上したこと」によるもので、特に雲のシミュレーションが改善されています。
しかしながら、CMIP6モデルの中には今世紀の温暖化速度が高くなっているものがありますが、これは他の証拠から見て可能性が非常に低いことだと付け加えています。このためAR6では、「観測的制約」を用いてCMIP6の部分集合を選んで、温暖化見通しに用いています。
今回の報告書では、下の図に示すように、特定の排出経路において、AR5よりもわずかに温暖化が進むと見通しています。例えば、低排出量のRCP2.6経路では、AR5の2081-2100年までの温暖化見通しは1.6℃でしたが、AR6のSSP1-2.6では1.8℃となります。
Highcharts温暖化見通しが高くなっているのは、AR6での過去の温暖化の推定値が高くなっていることや、気候感度の推定値が更新されていることなど、様々な要因があります。
また、各温室効果ガスの排出経路も、AR5で用いられたRCPとAR6のSSPでは全く同じではありません。
AR6では、同じような経路であれば温暖化がやや進むとしていますが、温暖化見通しの確実性のレベルもAR5に比べて飛躍的に向上しています。
AR5では見通しを不確実性の可能性の高い範囲に設定していましたが、AR6では可能性が非常に高い範囲に設定されています。実際には、AR5では温暖化が見通しよりも高くなる、あるいは低くなる可能性が33%であったのに対し、AR6ではその可能性はわずか10%にまで減少したことになります。
報告書は、残りの不確実性は、温室効果ガスの追加排出に対して気候がどの程度敏感であるかという不確実性が「大部分である」と、非常に高い確信度で述べています。
これは、将来的に世界がどれくらい温暖化するかについての3つの大きな不確実性のうちの1つで、2つ目はSSPシナリオで表現される将来の排出量の経路、3つ目は「炭素循環のフィードバック」です。
注目すべきは、本報告書はSSPシナリオと距離を置いており、その「実現可能性または見込み」は考慮されていないとし、実現可能性(どのようにすれば可能になるか、そもそも可能かどうか)は2022年に発表予定のWG3で検討するとしていることです。
SSP5-8.5および「RCP8.5」シナリオで見られるような非常に高いレベルに排出量が到達する可能性を疑問視する声もあり、この懐疑的な意見は報告書の中で適切に言及されています。
しかし、報告書では、SSP5-8.5シナリオの見通しは「まだ価値がある」とし、それに含まれる温室効果ガスの濃度は「排除できない」としています。
これは、「炭素循環のフィードバックの不確実性」によるもので、「名目上は低い排出量の軌道」であっても、CO2濃度をSSP5-8.5のレベルに押し上げる可能性があります。
炭素循環のフィードバックは、CO2濃度の上昇や温暖化に伴う永久凍土の融解によるメタンの放出や、森林生態系の変化などを含みます。
AR6では、温暖化によって永久凍土が融解して炭素が放出されることの確信度は高いが、放出の時期や規模については確信度が低いとしています。(参照:報告書では、急激な変化や「ティッピングポイント」についてどのように述べていますか?)
全体として、報告書は、炭素循環フィードバックの推定値は、AR6の今世紀の温暖化見通しに影響を与えないと、高い確信度で述べています。とはいえ、以下のように「大きな不確実性」が残っているとしています。
これらのフィードバックは、追加的な温暖化に伴って規模が拡大する追加的なリスク要因であり、温暖化を特定の温度レベルに制限する上での課題を増大させるものである。
報告書では、長期的に世界がどの程度暑くなるかについても評価しており、2300年までの温暖化が「過去数百万年間に見られなかった」レベルに達する可能性があるとしています。
中間的な排出経路では、2300年までに2.3~4.6℃の温暖化が起こり、約320万年前の「鮮新世の温暖期」に似た状態になるという中程度の確信度があるとしています。
一方、排出量が非常に多いSSP5-8.5シナリオでは、2300年までに6.6~14.1℃の温暖化が起こり、これは約5000万年前の「始新世初期の気候」以来のレベルであるとAR6は付け加えています。
§ 温暖化が1.5℃に達するのはいつですか?
パリ協定の締約国が、地球温暖化を1.5℃以下に抑えるための「努力を追求する」ことを約束して以来、このより野心的な気候目標に注目が集まっています。
2018年、IPCCはパリ協定の要請に応じて、1.5C特別報告書(SR15)を発表しました。この報告書では、世界がどれだけ限界に近づいているのか、限界を回避するためには何が必要なのか、そうした努力が失敗した場合には何が起こるのかといった問題を検討しました。
今回のAR6のWG1報告書では、これらの質問のうち最初の部分、主に「地球温暖化が産業革命以前のレベルから1.5℃に達する時期」について再検討しています。
一部のメディアの報道に反して、SR15と今回の報告書の研究結果は非常によく似ています。SPMの脚注によると、両者を同一条件の下で比較した場合、「1.5℃の温暖化を最初に超える時期に関するSR1.5の推定値は、今回報告された最良の推定値に近い」と述べています。
AR6報告書によると、大まかに言って、中程度以上の排出シナリオでは、1.5℃の気温の限界を「21世紀中に超える」としています。
AR6では、2021-40年の間の温暖化は、排出量が非常に多い場合には1.5℃を超える可能性が非常に高く、中程度以上の排出量でもそうなる可能性が高いと説明しています。SSP1-2.6のように排出量が少ない場合でも、近未来の温暖化は1.5℃を超える可能性がどちらかといえば高いとしています。
世界の温室効果ガスが「2020年代以降」減少し、CO2が「2050年代」に正味ゼロになるというSSP1-1.9の非常に低い排出シナリオでは、少し異なる状況になっています。
このシナリオでは、近未来には温暖化が1.5℃に「達する」可能性がどちらかといえば高いものの、今世紀後半には「0.1℃以下の一時的なオーバーシュートを伴って」1.5℃未満に戻ってくる可能性がどちらかといえば高いと報告書は述べています。さらに、温暖化が2℃未満にとどまる可能性が極めて高いとしています。
さらに報告書では、より正確に、いつ1.5℃と2℃の温暖化が起きそうかを評価しています。
地球表面気温(GSAT)の平均値が閾値を超えた最初の20年間の中間点を「閾値の通過時点」と定義しています。
1.5℃については、AR6報告書は次のように述べています。
SSP5-8.5を除くすべてのシナリオにおいて、1.5℃の閾値を超える中心的な推定値は2030年代前半にある。
具体的には、最も排出量の少ないSSP1-1.9では、2025-44年の20年間で1.5℃の限界を超えることになり、これは通過時点が2035年の半ばであることを意味します。
SSP1-2.6では、2023-42年に1.5℃を超え、通過時点は2032年、中間と高い排出シナリオは同じ数値で、2021-40年に1.5℃を超え、通過時点は2030年となっています。非常に高い排出量のSSP5-8.5では、1.5℃の通過時点は2027年半ばとなります。
下図は、AR6による1.5℃の通過(「超過」)時点の推定値を、SR15(左側)とCarbon Briefが昨年発表した分析結果から得た同様の数値とともに示したものです。
SR15報告書第1章第2章Carbon BriefHighchartsIPCC加盟国政府との間で合意され、報告書の残りの部分よりも後で作成されたSPMでは、SR15とAR6の推定値をどのように比較すべきか、あるいは比較すべきでないかについて、長い説明がなされています。
具体的には、AR6の1.5℃通過年に関する作業はより詳細であり、SR15 SPMの見出しにある知見とは「直接比較できない」としており、脚注には以下のように書かれています。
ある地球温暖化レベルをいつ初めて超えるかについてのAR6の評価は、例示シナリオの検討、放射強制力に対する将来の地表面温度の応答の評価に入ってきた複数の証拠、過去の温暖化の推定値の改善から恩恵を受けている。AR6の評価は、過去の温暖化速度を単純に直線的に外挿して2030年から2052年の間に1.5℃の温暖化に達する可能性が高いと報告したSR1.5 SPMとは、直接比較することができない。直線外挿の代わりにSSP1-1.9のようなシナリオを考慮すると、SR1.5の1.5℃の温暖化を最初に超える時期の推定値は、今回報告された最良の推定値に近い。
AR6の基礎となる章の初期のドラフトでは、そのような比較がなされており、1.5℃を超える時期の推定値は、「SR1.5で評価された可能性の高い範囲の中間点(2030-52)よりも約10年早い」と指摘されていました。
これは、SPMの初期のドラフトでも繰り返されていたもので、リークされたドラフトを基にした初期の報道にも登場していました。
しかし、SPMが承認された後、政府が承認した要約と報告書の残りの部分との整合性を確保するための「トリクルバック」文書を介して、AR6の最終版から「10年前」の記述が削除されました。
その代わり、報告書では、AR6による1.5℃を通過する時期の評価は、「SR1.5で評価された可能性の高い範囲(2030年から52年)の初期にある」とされています。
SPMの脚注で説明され、また上の図が示しているように、SR15は第2章で通過年についての2つめの推定を行っており、これはAR6で示されたものとより直接比較することができ、非常に近い結論となっています。
これらの詳細については、近日中に発行予定のCarbon Briefの分析でより詳しく説明する予定です。
最後に、WG1の報告書では、自然変動により、ある特定の年の地球の気温は長期平均より高くなったり低くなったりする可能性があることを指摘しています。
同報告書は中程度の確信度で、2030年までの間に、ある年の気温が産業革命前よりも1.5℃以上高くなる可能性が、排出経路に応じて40~60%あるとしています。
しかし、最近のCarbon Briefの記事にあるように、これでパリ協定の目標が破られたことにはなりません。AR6報告書は次のように述べています。
1850-1900年と比較して、地表面の温度変化が一定レベル以上、例えば1.5℃や2℃を超えた年が個別に発生したとしても、その地球温暖化レベルに達したことを意味するものではない。
§ 雨の降り方はどのように変化しているのでしょうか?
最近、北半球の国々を記録的な洪水が襲ったことを考えると、地球温暖化が降雨に与える影響は特に重要です。
本報告書では、気候変動がすでに水循環に影響を与え、このような極端現象を引き起こしていることを明確にしています。また、気温の上昇と強い降水現象との関連性を示す証拠は、「AR5以降、強まっている」と述べています。
しかし、これらの相互作用は複雑で、世界のさまざまな地域に異なる形で影響を与えています。
AR6では、降雨パターンの変化に関する現実の観測結果に加え、古気候の証拠、データの再解析、モデルによるシミュレーションを考慮しています。
そこには、AR5以降に改良された、より長期で一貫性のあるデータセット、過去のシミュレーションの新しい結果、トレンドの検出と原因特定(ディテクション·アトリビューション)ツールの改良などが盛り込まれています。
これらの技術革新により、「温室効果ガスとエアロゾルの排出による相反する影響を含め、最近観測された水循環の変化について、より包括的な評価とよりよい理解が可能になった」としています。
また、特に南半球の古気候の復元や、「雲、降水、地表フラックス、植生、雪、氾濫原、地下水、その他の水循環に関連するプロセスのモデル化の進展」などが追加されています。
水循環については、本報告書の第8章で詳しく述べられており、第2章でも若干触れられています。
本報告書では、地球温暖化に伴い、全世界の平均降水量と蒸発量が増加していると高い確信度で結論づけており、その増加は1℃あたり1~3%の範囲である可能性が高いとしています。
また、陸地の降水量は1950年以降増加している可能性が高く、1980年代以降は増加の速度が速くなっているとしています。第8章の要旨で、報告書は次のように述べています。
広範囲で非一様な、人間活動による水循環の変化は、20世紀の間、様々な異なる要因が競合していたために見えにくかったが、今後は地球規模での温室効果ガスによる強制力の影響が大きくなるだろう。
ここでいう「異なる要因」とは、人為的なエアロゾル(大気汚染や煙などの粒子)や土地利用の変化、取水などであり、これらすべてが降雨やより広い水循環に影響を与える可能性があります。
地球の温暖化に伴い、高い確信度で予想される結果は以下の通りです。
- 雨季の降雨量の増加や降雨現象の増加。
- より深刻な「非常に雨の多い」および「非常に乾いた」現象。
- より強い降水現象と、そのような現象が発生した際の洪水の危険性の増大。
- 陸地の温暖化により蒸発量が増加するため、干ばつの深刻度が増す。
- 陸地での温暖化が海洋よりも大きいため、大気の循環パターンが変化し、相対湿度が低下し、一部の地域で乾燥が進む(ただし、報告書では、陸地では湿度が上昇している可能性が非常に高く、海洋でも湿度が上昇している可能性が高いと指摘しており、この現象についてはCarbon Briefのゲスト投稿で説明しています)。
- 熱帯の循環が減速し、温暖化によるモンスーン地域の降水量の増加を部分的に相殺する。
北半球高緯度地域では、温室効果ガスによる放射強制力によって、すでに「検出可能な」降水量の増加が起きていると、報告書は高い確信度で結論づけています。
一方、地中海沿岸、南アフリカ、北米西部などの地域の夏の乾燥した気候は、さらに乾燥してきていると、中程度から高い確信度で述べています。
また、中程度の確信度で、熱帯気候における雨季と乾季のコントラストが強まっていると指摘しています。
大規模な大気循環もここ数十年で変化している可能性が高いですが、プロキシデータが不足しているため、長期的なトレンドとの比較については確信度が低いとしています。
例えば、1980年代以降、ハドレーセルと呼ばれる地球規模の大気循環が拡大した可能性が非常に高く、モンスーンの雨が増加した可能性が高く、(2018年に英国を襲って話題となった「東からの獣」の背景にあった)北半球の成層圏極渦が弱まり、「ユーラシア大陸に向かってより頻繁に張り出す」ようになったとしています。
報告書では、熱帯地方の多くの地域の降水量を左右する赤道付近の低気圧の帯である「熱帯収束帯(Intertropical Convergence Zone; ITCZ)」の幅と強さが、気候の温暖化にどのように応答するかについての理解が、AR5以降、進んでいるとしています。
AR6では、気温の上昇によってITCZが狭まり強化され、その結果、中心付近の降雨量が増え、南北方向に離れると降雨量が減ると、高い確信度で結論づけています。それがすでに起こっているという確信度は中程度です。
これまでのところ、地球温暖化によるモンスーンの強さの増加は、大気中のエアロゾルによる冷却によってやや抑制されていると、報告書は高い確信度で述べています。
将来的には、南アジア、南東アジア、東アジアのモンスーンの強度が増す一方で、北米などのモンスーンの強度が下がることが中程度の確信度で見通されています。
より広い意味では、「温室効果ガスの大規模な削減がなければ、地球温暖化は地球規模と地域規模の両方で水循環に大きな変化をもたらすと見通される」と高い確信度で述べています。
下の地図は、SSP2-4.5シナリオにおける2081年から2100年までの各季節における世界の降水量の変化を、1995-2014年を基準として見通したものです。色の濃淡は降水量の増加(緑)と減少(茶)を示し、斜線はモデルの一致度が低い地域を示しています。
また、降雨量と降雨強度の増加が見通されていることから、北半球の高緯度地域では流出量が増加し、ほぼすべての地域で極端な降水の増加が起こると、高い確信度で述べています。
このような極端現象は、季節平均降水量が減少すると見通されている地域でも起こるだろうと、中程度の確信度で付け加えています。
その一方で、アマゾンや中米などの熱帯地域では乾燥化が進み、「干ばつの頻度と深刻度が増加する土地の総面積が拡大する」とも高い確信度で述べています。
しかし、全球気候モデルは、主要なプロセスを表現する能力が格段に向上しているものの、「現在の水循環のすべての側面をシミュレートし、将来の変化について合意する能力にはまだ限界がある」と指摘しています。
最後に、「水循環の急激な人為的変化を排除することはできない」としています。例えば、アマゾンでの森林伐採の継続と気候の温暖化が重なった場合、「21世紀中にこの生態系がティッピングポイントを越えて乾燥状態に陥る可能性が高くなる(確信度は低い)」としています。
また、古気候の記録によると、大西洋子午面循環(Atlantic Meridional Overturing Circulation; AMOC)が崩壊すると、「熱帯降水帯の南下、アフリカやアジアのモンスーンの弱化、南半球のモンスーンの強化など、水循環の急激な変化(確信度が高い)」が起こるとしています。(参照:報告書では、急激な変化や「ティッピングポイント」についてどのように述べていますか?)
§ 温暖化は世界の雪や氷にどんな影響を与えているのでしょうか?
海氷
気候変動により、地球上の多くの地域で氷や雪が融けています。本報告書では、1979-88年と2010-19年の間に、8-10月の月平均の北極海の海氷面積が約4分の1縮小し、その結果、約200万平方キロメートル(km2)の海氷が失われたことを高い確信度で示しています。
さらに、気温の上昇に伴い、厚い多年氷から、薄くて新しい氷へと変化しています。報告書によると、1985年3月には多年氷が北極海の海氷面積の約3分の1を占めていたのに対し、2019年3月には多年氷はわずか1.2%しか占めていません。多年氷の消失は、特に2000年代に急速に進んだと付け加えています。
北極圏の夏が「氷のない」状態になる可能性は、以前から研究対象として注目されていました。SPMでは、「本報告書で検討した5つの例示シナリオの下では、2050年までに少なくとも一度は、9月に北極が実質的に海氷のない状態(海氷面積が100万km2以下であることを示す)になる可能性が高く、温暖化レベルが高くなるほど発生頻度が高くなる」としています。
しかし、本報告書では、夏の北極海の海氷が失われる「ティッピングポイント」は存在しないことを強調しています。
下の図は、北極海の海氷密接度の観測値とSSP2-4.5での変化見通しを示したものです。
一方、南極の海氷については、「1979年から2020年にかけての衛星観測による海氷面積には、夏季·冬季ともに有意な傾向は見られない」とし、「南極の海氷に関する過去および将来のシミュレーションの確信度は低い」と付け加えています。
氷床
陸氷については、グリーンランドと南極大陸の2つの氷床に焦点を当てています。
報告書によると、グリーンランドでは、2000-09年にかけて年間1,750億トン(175Gt)の質量が失われましたが、2010-19年にかけては年間234Gtに加速しています。報告書では、気候の温暖化に伴い、グリーンランドの質量損失の大半は、表面質量バランス(surface mass balance; SMB)の減少(氷床に積もった雪と表面で融けた雪の差であり、氷山の分離や海底での融解による流出ではない)が原因であると付け加えています。この傾向は今後も継続する確信度が高いとしています。
報告書によると、グリーンランドは、考えられるすべてのSSPシナリオにおいて、今世紀中に質量の損失が続くことがほぼ確実であるとしています。グリーンランドの氷床が今世紀末までに1995-2014年を基準として、SSP1-2.6では0.01~0.10m、SSP5-8.5では0.09~0.18mの海面上昇に寄与する可能性が高いと付け加えています。
一方、南極氷床からの質量損失も加速しています。報告書によると、氷床は2000-09年の間に年平均70Gt、2010-19年の間に年平均148Gt失われています。しかし、質量損失は氷床全体で一様ではなく、西南極氷床(West Antarctic ice sheet; WAIS)での質量損失が1970年代後半以降の質量損失の大半を占めていると、非常に高い確信度で述べています。
報告書では、東南極氷床(East Antarctic ice sheet; EAIS)の一部で過去20年間に質量が減少したことに高い確信度があるが、氷床全体からの質量減少が「不確実性の範囲内で実質的にゼロ」であるかどうかは「現在のところ不明」としています。
本報告書では、すべての排出シナリオにおいて、南極氷床は今世紀中に質量を損失し続け、2100年までにSSP1-2.6では0.03~0.27m、SSP5-8.5では0.03~0.34mの海面上昇に寄与する可能性が高いとしています。しかし、SPMは次のように付け加えています。
高い温室効果ガス排出シナリオの下で、南極氷床からの氷の損失を何世紀にもわたって強く増加させるような、可能性は低いが影響は大きい結果(深い不確実性を特徴とする氷床の不安定化プロセスから生じ、ティッピングポイントを伴う場合がある)については、限られた証拠しかない。
(これらのプロセスと海面水位への潜在的な影響については、「AR5以降、海面上昇の見通しはどのように変化しましたか?」を参照)
氷河
「1950年代以降、世界のほぼすべての氷河が同期して後退しているという氷河後退の世界規模の性質は、少なくとも過去2,000年では前例がない」とSPMは中程度の確信度で述べています。報告書は、この期間、質量損失の25%がアラスカから、13%がグリーンランド周辺の氷河から生じていると付け加えています。
氷河は気温の変化に対して「遅れた反応」を示すため、気温が安定した後も「少なくとも数十年間」は質量の損失が続くとしています。RCP2.6とRCP8.5の下では、2100年までに氷河は21世紀初頭の質量のそれぞれ18%と36%を失うと見通しています。さらに、次のように述べています。
1.5℃と2℃の間の持続的な温暖化レベルにおいて、約50~60%の氷河の質量が、主に極地で残ることに限られた証拠と低い確信度しかない。2℃と3℃の間の持続的な温暖化レベルでは、南極大陸以外の氷河の質量の約50~60%が失われ、3 ℃と5℃の間の持続的な温暖化レベルでは、南極大陸以外の氷河の質量の60~75%が消滅するだろう。
永久凍土と季節的な積雪
永久凍土は、1年中凍っている土地で、特に北半球に広く分布しており、陸地の約15%を覆っています。報告書によると、永久凍土のある地域は世界的に温暖化しており、その大きさは2007-16年の間に0.17~0.41℃の可能性が高いと考えられます。
永久凍土の最上層は「活動層」と呼ばれ、毎年、凍結と融解のサイクルを繰り返しています。報告書では、1900年代半ば以降、アジアやヨーロッパの高地で活動層が厚くなっていること、つまり夏になるとより深い部分の土壌が融解していることを明らかにしています。また、「活動層の厚さの増加は汎北極圏の現象である」と中程度の確信度があると付け加えています。
報告書では、気候の温暖化に伴って永久凍土の範囲と体積が縮小することはほぼ確実であるとしています。同報告書では、地表の気温が1℃上昇するごとに、地表から3メートル以内の永久凍土の体積が25%ずつ減少すると推定しています。
積雪は北半球で多く見られ、報告書では、1978年以降、特に春の積雪面積が「大幅に減少」している可能性が非常に高いとしています。また、1981-2010年に、北半球の積雪面積は、積雪期の気温が1℃上昇するごとに1.9百万km2減少したと付け加えています。
温暖化が進むにつれ、積雪量がさらに減少することはほぼ確実であるとしています。執筆者らは、北半球の春季積雪面積は、地表面の気温が1℃上昇するごとに約8%減少することに中程度の確信度を持っていますが、「積雪が消滅する場合」は例外です。報告書は次のように説明しています。
これ(積雪の消滅)は、7月と8月については、GSATの変化が1995-2014年のレベルより約+2℃(つまり、産業革命前のレベルより約+3℃)、6月と9月については、1995-2014年のレベルより約+3Cで発生する。
§ 海洋の変化についてはどのように書かれていますか?
産業化時代以降、人為的に引き起こされた温暖化の大部分(過剰熱の約90%)を海が吸収してきました。報告書では、現在の貯熱量増加率は、最終氷期の終わり以降の「どの時点よりも大きい」と指摘し次のように述べています。
1970年代以降に観測された貯熱量増加率に匹敵するのは、ヤンガードリアス末期(12.75-11.5千年前)の短期間の急速な温暖化のみである。
ここ数年の新たな観測と分析により、AR5(pdf)とSROCCが示した産業化時代以降の海洋貯熱量の「持続的な上昇」という知見が「強化」されたと報告書は述べています。
温暖化の速度は、表層から深層への水の循環が遅いため、海の上部700mで最も高くなります。温暖化シグナルの確信度は、深さが増すにつれてわずかに低下します。報告書では、700m以上の層の温暖化はほぼ確実、700~2000mの層の温暖化は可能性が非常に高い、それ以下の層の温暖化は可能性が高いと分類されています。
また、今回のデータは、20世紀に入ってから世界の平均海面水温が上昇したことを「明確に」示しています。1850-1900年から2011-2020年までの平均海面水温の上昇は0.88℃で、その3分の2以上は1980年以降に発生しています。
AR5が発表されて以来、古い気温記録のデジタル化を含む新しいデータにより、「データの少ない地域と期間」のカバー率が「大幅に改善」されました。また、AR5以降、主要なデータセットが更新されたことで、海面水温の推定精度が向上したとしています。
1995-2014年から2081-2100年にかけて、SSP1-2.6では海面水温が平均0.86℃上昇し、SSP5-8.5では平均2.89℃上昇すると見通されています。下の図は、古気候記録からの世界平均海面水温の復元(左)、CMIPモデルによる復元、過去のデータと2100年までの見通し(中央)、2300年までの見通し(右)です。
また、AR5やSROCC以降、大規模なデータセットの充実により、海の塩分濃度の変化に対する「観測的な裏付けが強化」されたとしています。1950年以降、海の塩分濃度が高い地域はさらに塩分濃度が高くなり、比較的塩分濃度が低い地域はさらに低くなったことはほぼ確実であると述べています。
塩分濃度の変化と同様に、海面の温暖化も世界中で一様に感じられているわけではありません。報告書によると、最も急速な温暖化はインド洋やメキシコ湾流などの海流で観測されており、他の地域では温暖化の速度がより遅いか、あるいはむしろ産業化時代以降に冷えていることがわかっています。しかし、すべての温暖化シナリオにおいて、「21世紀中に海面の少なくとも83%が温暖化する可能性が非常に高い」とIPCCは結論づけています。
海の表面が温まると、温かい水は冷たい水よりも密度が低いため、成層化(安定化)が進みます。SROCC以降、全世界のデータセットを新たに「精緻に」分析した結果、この成層化の新しい推定値は増加し、1970-2018年の間に4.9%と、以前の推定値の2倍になっています。上層海洋の安定度が「21世紀を通じて増加し続ける」ことはほぼ確実であると執筆者らは述べています。
安定度の増加は、大規模な海洋循環だけでなく、海洋の表層部と深層部の間の「鉛直方向の交換に影響を与える」と報告書は述べ、その結果、酸素などの大気ガスの海洋への取り込み量の観測された変化に貢献したといいます。
1970-2010年の間に、外洋の上層1,000mからの溶存酸素が0.5~3.3%減少していることが観測されています。報告書によると、このような貧酸素化の増加にはいくつかの要因があり、そのうち15%は溶解度の影響(暖かい海では冷たい海に比べてガスが溶けにくい)によるものとされています。また、海洋上層部の安定度増加による輸送量の減少が「残りの貧酸素化のほとんど」を占めており、呼吸の変化も一因となっています。
CMIP6モデルでは、CMIP5モデルと比較して、表層(100~600m)の酸素の減少が32~71%大きく見通されています。この「継続的かつ加速的な減少」により、21世紀には「歴史的に前例のない」海洋酸素レベルになるだろうと執筆者らは警告しています。
報告書によると、貧酸素化は、特にすでに低酸素環境である地域において、一酸化二窒素(N2O)、メタン、CO2の海洋からの放出を促進するが、他の海洋プロセスによって、これらの温室効果ガスの損失増加の一部または全部が相殺される可能性があるということです。
これまで海洋は、人類が排出したCO2の約20~30%を吸収してきました。海洋がCO2を吸収すると、海洋酸性化と呼ばれるプロセスにより、そのpHはどんどん低下していきます。報告書によると、1980年代後半以降、10年ごとに-0.017~-0.027pH単位で表層の海のpHが低下していることはほぼ確実です。
調査されたすべてのシナリオにおいて、海洋は大気中に放出されたCO2を吸収し続けます。海洋が吸収するCO2の量は、排出量の増加に伴って増加しますが、その割合は減少し、より多くの部分が大気中に留まることになります。下図は、排出されたCO2が大気、海洋、陸域にどのように分配されるかを示したものです。
AR6では、プロキシデータを用いて、過去6千5百万年で最も温暖な気候となった急激な温暖化現象である暁新世·始新世境界の温暖化極大期(Paleocene-Eocene Thermal Maximum; PETM)まで遡ったpH記録を提示しています。報告書には次のとおり書かれています。
PETM期の)酸性化の程度は、RCP8.5のもとで21世紀末に見通される0.4pH単位の減少と同程度であり、現在の海洋酸性化の速度よりも一桁遅い速度で発生したと推定される。
報告書では、CO2除去が海洋酸性化にどのような影響を与えるかという問題も検証しています。表層の海の酸性化はすぐに緩和されますが、混合時間が遅いため、大気中のCO2が減少し始めた後も、深層の海には炭素が「蓄積され続ける」ことになります。したがって、少なくとも深海における酸性化の影響は、「積極的な」CO2除去を行ったとしても、数世代にわたる時間スケールで「不可逆的」であると執筆者らは述べています。
世界の他の地域と同様、気候変動の影響で、海洋における極端気象現象はますます頻繁になり、深刻さを増しています。その中でも最も顕著なのが海洋熱波で、1980年代以降、その頻度は約2倍になっていると報告書は述べています。
また、海洋熱波はより長く、より激しくなっています。報告書にはこう書かれています。
人為的な地球温暖化により、過去数十年間で最も影響の大きい海洋熱波の頻度が20倍以上に増加しているという新たな証拠が、SROCC以降に得られている。
SROCCとSR15では海洋熱波が取り上げられましたが、IPCCの評価報告書で海洋熱波が取り上げられるのは今回が初めてです。AR6では、今世紀末までにこれらの極端な現象がSSP1-2.6では4倍、SSP5-8.5では8倍の頻度で発生すると見通しています。
§ AR5以降、海面上昇の見通しはどのように変化しましたか?
1901年以降、世界平均海面水位(global mean sea level; GMSL)は約0.20m上昇し、その速度は「加速」しています。報告書では、20世紀のGMSL上昇速度は、過去3千年の中で他のどの世紀よりも速く、この速度は1960年代以降、増加していると高い確信度で述べています。
報告書によると、20世紀初頭からの平均上昇速度は年間1.73mmですが、1971-2006年の平均上昇速度は年間1.87mm、2006-18年は年間3.69mmとなっています。また、潮位計に基づく復元においても、20世紀における海面上昇(sea level rise; SLR)の速度が「堅固に加速している」ことが明らかになったと付け加えています。
今回の報告書では、2100年までにSSP1-1.9ではGMSLが0.38m(可能性が高い範囲は0.28~0.55m)、SSP5-8.5では0.77m(範囲は0.63~1.01mの)上昇すると見通しています(基準期間である1995-2014年と比較)。これらの見通しは、AR5(pdf)での見通しよりも「わずかに高い」が、SROCCでの見通しと「ほぼ一致する」と報告書は指摘しています。
地球規模でのSLRのシグナルは明らかですが、地域レベルでは、海面データは依然として短期的な海洋プロセスに支配されています。しかし、報告書によると、人為的なシグナルは「2100年までにほとんどの地域で出現する」と予想されています。
海面上昇の主な要因は、海水の熱膨張、氷河や氷床からの質量減少、陸水の貯留量の変化です。これらはいずれも今後も継続すると予想されるため、報告書はこう記しています。
世界平均海面水位に寄与すると評価されたすべての要因が、今世紀を通じて寄与し続けることは、可能性が高いからほぼ確実であるため、世界平均海面が2100年まで上昇し続けることはほぼ確実である。
報告書によると、1901-2018年のGMSLの変化のうち、熱膨張と氷河の質量損失がそれぞれ約40%を占めていますが、氷床からの質量損失は過去数十年の間にますます重要な要因となっており、2006-18年には27%以上を占めています。
氷床の応答は、将来の海面上昇の最大の不確実性の1つです。ローワン大学のAndra Garner教授は、2019年のCarbon Briefの海面上昇の解説において次のように述べています。
将来の海面上昇の大きさと速度の不確実性をもたらす要因は数多くありますが、温暖化した気候における南極氷床とグリーンランド氷床の挙動は、おそらくこの不確実性の最大の要因の一つです。特に、南極氷床による海面上昇への寄与がこれまで考えられていたよりも大きい可能性を示唆する新たな研究が発表されたことで、将来の海面上昇の見通しの上限が上昇してきています。
AR6では、海面上昇の各要素を個別に評価し、その寄与度を合計することで、予想される総量を算出しています。熱膨張、グリーンランド氷床、氷河、陸水貯留による海面上昇について、AR6の個々の見通しは、AR5やSROCCの見通しとほぼ一致しています。
しかし、AR6では、南極の融解による海面上昇は2倍近くになると見通しており、その結果、2100年の海面上昇の見通しはAR5よりも若干高くなっています。
AR6の見通しの大部分では、少なくとも中程度の確信度があるプロセスのみが含まれています。つまり、海氷の崖の不安定性(marine ice cliff instability; MICI)を含むモデルは、確信度が低いため、主要な見通しから除外されているのです。
MICIは、氷河の表面にそびえ立つ氷の崖が、それを支える棚氷が失われると、自重で海に崩れ落ち、さらなる崩壊を引き起こす可能性があるというプロセスです。報告書では、MICIは「限られたプロセスの理解」と「限られた評価データの入手可能性」から「深い不確実性を特徴とする」としています。
しかし、AR6では、MICIを含むモデルによる見通しと、「構造化された専門家の判断」(専門家による推定値を組み合わせる「正式で校正された方法」)に基づく見通しを別々に提示しています。
下図は、異なるRCP/SSPシナリオにおける2050年と2100年のGMSL見通しです。AR5、AR6、SROCCによる見通しに加えて、MICIを含めたGMSL、構造化された専門家の判断(「SEJ」)によって決定されたGMSL、106人の海面水位専門家へのアンケート(「survey」)の結果としてのGMSL見通しを示します。
これまでの評価報告書では、2100年までの見通しが中心でした。しかし、AR6では、「2100年は、いくつかの長期的なインフラ決定の時間枠内に入っている」と指摘しています。そのため、新評価報告書では2150年までの海面上昇を見通しています。2100年以降の氷床の変化が「加速しない」と仮定した場合、中程度の確信度のプロセスでは、SSP1-2.6ではGMSLが0.46~0.99m上昇し、SSP5-8.5では0.98~1.88mまで上昇することになります。
下図は、5つの異なるSSPシナリオによる2150年までのGMSLの見通しを示しています。
AR6は、IPCCの報告書としては初めて、過去の排出量によってすでに固定されてしまった「コミットされた」海面上昇を取り上げています。報告書によると、仮に現在の排出量が停止したとしても、2300年までに海面がさらに0.7~1.1m上昇する可能性が高いとしています。2030年までの「約束された排出量」を考慮すると、この数字は0.8~1.4mに増加します。
2030年以降も排出が続けば、海面はそれに応じて上昇し続けます。低排出シナリオのSSP1-2.6では、GMSLは2300年までに0.3~3.1m上昇すると見通されます。SSP5-8.5では、この範囲は1.7~6.8mに拡大し、MICIを含めるとSLRの上限は16mとなります。
これらの見通しをさらに制約するためには、氷床の力学に関する理解を深める必要があります。報告書には以下のように書かれています。
SSP5-8.5における見通しの手法の違いによる8倍の不確かさの範囲は、強い気候強制に対する氷床の数世紀にわたる応答における深い不確かさを反映している。
2300年以降の海面上昇の見通しには「限られた証拠」しかないと報告書は指摘していますが、AR5以降の2つの研究では、過去の長期見積りを上方修正しています。ピーク時の気温上昇が2℃の場合、これら2つの研究では、今後2千年の間に2~6m、今後1万年の間に8~13mの海面上昇が見通されています。
グリーンランド氷床と南極氷床の寄与は、数千年単位の時間スケールでの海面上昇を「支配」していると執筆者は書いています。しかし、「特筆すべきは」、今後数百年の間に「深い不確実性」をもたらすMICIなどのプロセスは、これらの長い時間スケールでの海面上昇の大きさに「実質的な影響」を及ぼさないようだと報告書は述べています。
下の図は、SSP1-2.6とSSP5-8.5の両方において、南極氷床、グリーンランド氷床、氷河、陸水貯留量、そして海洋の熱膨張が、地球の海面上昇にどのように寄与するかを示したものです。
§ 人間が及ぼしている影響について、報告書はどのように述べていますか?
AR6には、気候システムに対する人間の影響を評価するための章があり、その冒頭は「人間の影響が産業革命以前から地球の気候システムを温暖化させていることは疑う余地が無い(unequivocal)」という記述で始まります。
技術要約(テクニカルサマリー)では、IPCCの連続した報告書の中で、気候変動に対する人間の影響を示す証拠がより強くなっていると説明されています。
最近の気候変動に対する人間の影響を示す証拠は、IPCC第2次評価報告書(1995年)からAR5(2013-14年)にかけて徐々に強まっており、今回の評価では、地域スケールや極端な現象を含めてさらに強くなっている。
IPCCの執筆者であるEd Hawkins教授は、記者会見で、AR5では観測された温暖化に対して「unquivocal」という言葉が使われていたが、AR6では「気候に対する人間の影響に対して使われている」と指摘し、こう付け加えました。
つまり、これは事実についての記述であり、これ以上強い確信の持ち方はありません。人間が地球を温暖化させていることに疑う余地は無く、議論の余地もありません…そして、すべての政府がこれ(SPMに書かれている表現)に同意したのです。
新報告書では、AR5と比較したAR6の科学的進歩の概要も示されています。
人間の影響に関する理解の進展は、より長期の観測データセット、古気候情報の改善、AR5以降のより強い温暖化シグナル、そして気候モデル、物理的理解、アトリビューション技術の改善から得られている。AR5以降、人間の影響のアトリビューションは、より広範な気候変数と気候的な影響駆動要因について可能となった。いくつかの証拠に基づいた新しい技術と分析により、地域的な気象や気候の極端現象の変化を人間の影響に帰すことに、より大きな確信が得られた(確信度が高い)。
例えば、AR5では、1951-2010年の間に観測された世界平均表面温度の上昇の半分以上を人間活動が引き起こした可能性が極めて高く[pdf]、1951年以降に観測された地球温暖化を内部変動だけでは説明できないことがほぼ確実であるとしました。AR6では、温暖化は1850-1900年以降の人間活動に起因するとしています。
SPMは、1850-1900年と2010-19年の間に、人間の活動によって0.8~1.3℃の温暖化がもたらされたと説明しており、最良推定値では1.07℃となるとしています。これに対し、同期間に観測された温暖化は1.06℃であり、地球温暖化の約100%が人間の活動によるものであることが強調されます。
SPMによると、温室効果ガスによる地表温度の上昇は1.0~2.0℃である可能性が高く、これをエアロゾルによる地表温度の低下(0.0~0.8℃である可能性が高い)が相殺していると考えられています。
下の図は、1850-2020年の観測された地球の温度(黒)に対して、温室効果ガスによる温暖化(赤)、エアロゾルによる寒冷化(青)、自然変動によるほぼ中立的な影響(緑)を示しています。
本報告書では、雪氷圏、大気、海洋を含む気候システムの大部分で観測された変化に対する人間の影響も評価しています。例えば、AR6では、地球規模での極端な暑さや寒さの変化の主な要因が人為的な温室効果ガスの強制であることはほぼ確実であるとしています。
同様に、AR5では可能性が非常に高いとしていた海洋酸性化も、人為的なCO2の取り込みが主な要因であることがほぼ確実としています。これは、AR5の発表以降、地表の炭素化学の観測とシミュレーションがより堅固になったことと、人為的なCO2の取り込みによる酸性化と富栄養化による沿岸水の酸性化を区別する方法が「かなり改善された」ためであるとしています。
また、SPMは、1970年代以降、世界の上層海洋が温暖化していることはほぼ確実で、人間の影響が主な要因である可能性が極めて高いと判断しています。さらに、1850-2014年にかけて、産業化時代の熱の取り込みの58%が海の上層(0~700m)で発生し、中層と深層ではそれぞれ21%と22%が取り込まれたとしています。
一方、海面上昇は複数の要素で構成されており、報告書ではそれぞれに対する人間活動による影響度合いの確信度が異なっています。
全体としては、少なくとも1971年以降の海面上昇の主な要因は人間の影響である可能性が非常に高いとしています。これは、報告書によると、世界平均海面上昇に最大の寄与をしている熱膨張の主な要因が1970年以降、人間の影響である可能性が非常に高いことが理由のひとつです。
また、CMIP6以前の全球気候モデルでは、南極とグリーンランドの氷床が存在しなかったことを指摘し、次のように述べています。
氷河と氷床に含まれる地球上の貯水量の諸側面と、海面上昇への寄与についての理解は、AR5とSROCC以降、モデルと観測の両方で向上している。
SPMは、「1990年代以降の世界的な氷河の後退と、1979-88年から2010-19年の間の北極海の海氷面積の減少(9月には約40%、3月には約10%)の主な要因は、人間の影響である可能性が非常に高い」と付け加えています。
一方、グリーンランドの氷床の融解には、人間の影響が寄与した可能性が非常に高いとしています。しかし、SPMによると、「南極氷床の質量減少に人間の影響があったことを示す証拠は限られており、中程度の一致しかない 」としています。
また、1950年以降に観測された春の積雪の減少は、人間の影響である可能性が非常に高いとしています。また、CMIP6モデルでは、CMIP5モデルの季節的な積雪の系統誤差が修正され、積雪の季節性や地理的な分布がよりよく表現されていると付け加えています。
また、人間が生物圏に与える影響についても調査しています。報告書によると、大気中のCO2レベルが上昇したことで、植物の成長への施肥効果が促進されました。しかし、地域によっては土地の管理が主な要因となっているため、このCO2施肥効果が地球の緑化の主な要因になっているという確信度は低いとしています。
SPMは、20世紀半ば以降に観測された降水量の大規模な変化には、人間の影響が寄与している可能性が高いとしています。さらに以下の通り付け加えています。
トレンド分析に十分な観測データが得られているほとんどの陸域では、1950年代以降、激しい降水現象の頻度と強度が増加しており(確信度が高い)、人為的な気候変動が主な要因である可能性が高い。
さらに、CMIP6モデルの極端降水の強度と頻度のシミュレーションにおける全体的な性能はCMIP5モデルと同様であるが、極端降水に対する人間の影響を示す証拠はAR5以降、より強くなっていると、高い確信度で付け加えています。
以下の表では、Carbon Briefが本章からいくつかの重要な評価を抽出し、AR5での同様の評価と比較しています。
変数 | 人為影響 AR5 | 人為影響 AR6 |
---|---|---|
1950年以降の大規模な降水変化 | 中程度の確信度 | 可能性が高い |
北極海氷の損失 | 1979年以降貢献していた可能性が非常に高い | 「1970年代後半以降の北極海海氷損失の主な要因であった」可能性が非常に高い |
北半球の積雪の減少 | 可能性が高い(1970年以降) | 可能性が非常に高い(1950年以降の春の積雪について) |
南極海氷の損失 | 確信度が低い | 確信度が低い |
氷河の後退 | 1960年代以降の氷河の後退に貢献していた可能性が高い | 「1990年以降の地球規模のほぼ全域の氷河の後退の主な要因であった」可能性が非常に高い |
グリーンランド氷床の融解 | 可能性が高い(1993年以降) | 可能性が非常に高い(過去20年以上) |
南極氷床の損失 | 確信度が低い | 証拠が限られている |
海面水位上昇 | 1970年代以降「大きな貢献があった」可能性が非常に高い | 1971年以降の主な要因であった可能性が非常に高い |
海洋上層の貧酸素化 | 確信度が中程度 | 確信度が中程度 |
人為CO2の吸収による海洋酸性化 | 可能性が非常に高い | 主な要因であったことがほぼ確実 |
上層の海洋貯熱量の増加 | 大きな貢献があった可能性が高い | 主な要因であった可能性が極めて高い |
§ 報告書では、急激な変化や「ティッピングポイント」についてどのように述べていますか?
報告書によると、地球システムの温暖化への応答は、現在のところ「最近の気温変化の速度に比例している」が、「一部の局面では比例的でない応答があり得る」としています。
このような急激な変化は、「最近の過去の変化の速度よりも大幅に速く」起こると報告書は述べています。場合によっては、急激な変化は「システムの状態が実際に不安定になることで起こる」といいます。これが「ティッピングポイント(臨界点)」と呼ばれるもので、「システムが、しばしば急激に、あるいは不可逆的に再編成される決定的な閾値」と定義されています。
ティッピング「要素」とは、すなわち「ティッピングポイントを起こしやすい」地球システムの構成要素のことになります。
報告書では、気候の急激な変化と不可逆性についての理解は「AR5以降、かなり進んでいる」とし、「提案されているティッピング要素の変化見通しの多くは、より確信を深めている」と述べています。
報告書によると、地球の歴史の中には突然の変化が起こった証拠があり、氷期が終わったときの「退氷」のように、「地球の気候の大きな変化と関連している」ものもあります。執筆者は以下のように付け加えます。
このような現象は、数万年から数十万年にわたって地球の気候を変化させたが、その速度は、今世紀中に見通される人為的な気候変動よりも(ティッピングポイントがなかった場合でさえも)、実際にははるかに遅い。
この古気候の証拠は、「人為的な温室効果ガスが地球の気候を恒久的な高温状態に移行させてしまうのではないかという懸念を高めてさえいる」と報告書は述べ、以下のように続けています。
しかし、今後100年間の気候見通しでは、地球規模でそのような非線形応答を示す証拠はなく、地球の気温は温室効果ガスの累積排出量にほぼ線形に依存することが示されている。
それにもかかわらず、SPMは、気候システムにおける急激な応答やティッピングポイントを「排除することはできない」と高い確信度で指摘しています。
報告書の執筆者は、「応答の遅いプロセスが過去と現在の排出量に対して調整するために、不可逆的でコミットされた変化がすでに進行している」ことはほぼ確実であるとしています。また、次のようにも述べています。
地球規模の気候指標については、急激な変化の証拠は限られているが、海洋深層部の温暖化、酸性化、海面上昇は、地球表面温度が最初に安定した後、数千年にわたって継続的に変化することが決まっており、人間の時間スケールでは不可逆的である(確信度が非常に高い)。
これらの応答の遅いプロセスの中には、大西洋の海流システムである大西洋子午面循環(AMOC)があり、これは熱帯地方やそれ以外の地域からヨーロッパに暖かい水を運んできます。
執筆者らは、AMOCは「すべてのSSPシナリオにおいて、21世紀中に減退する可能性が非常に高い」と結論づけています。そして、その減退が「2100年以前の急激な崩壊を伴わない」という確信度は中程度であるとしています。(今回のIPCC報告書が発表される前の週に、「過去100年の間に、AMOCは比較的安定した状態から臨界点に近いところまで変化したのではないか」とする新しい研究が発表されました。)
このような崩壊は、「グリーンランド氷床からの予期せぬ融け水の流入によって引き起こされるかもしれない」と報告書は述べています。万が一、崩壊が起きれば、「熱帯降水帯の南下など、気象パターンや水循環の急激な変化を引き起こす可能性が非常に高く、アフリカやアジアのモンスーンが弱まり、南半球のモンスーンが強まる可能性がある」としています。
もうひとつのゆっくりとしたプロセスは、地球の氷床が気温の上昇に対してどのように応答するかということです。報告書では、気温上昇が2℃から3℃の間で維持された場合、「グリーンランドと西南極の氷床が数千年かけてほぼ完全に、かつ不可逆的に失われるという証拠は限られている」としています。しかし、報告書は、高い確信度で、「氷床が完全に失われる確率と質量減少の速度は、地表温度の上昇とともに増加する」と指摘しており、さらに、次のように述べています。
3℃から5℃の間の持続的な温暖化レベルでは、グリーンランド氷床のほぼ完全な消失と西南極氷床の完全な消失が、数千年にわたって不可逆的に起こると見通される(確信度が中程度)。東南極のウィルクス氷河下盆地の大部分もしくは全部も数千年にわたって消失する(確信度が低い)。
執筆者らは、最近のレビューで「西南極氷床の不可逆的な消失がある程度すでに始まっている可能性があることがわかった」ことを指摘しています。そして、「南極からの海面上昇加速の早期警告シグナルが、今後数十年以内に観測される可能性がある」と付け加えています。
陸地では、永久凍土(少なくとも2年以上連続して凍結している地面)の融解が炭素の放出につながるという確信度が高いとしています。しかし、「そのタイミング、規模およびフィードバックプロセスとしてのCO2とメタンの相対的な役割」については、確信度が低いとしています。
報告書では、永久凍土は2100年までに地球温暖化1℃あたり30億~410億トンの炭素を放出すると推定しています。しかし、「急激な融解などの重要なプロセスが不完全に表現されており、観測による制約が弱いことも相まって、これらの推定値の大きさと、このフィードバックが地球温暖化の大きさにどれだけ直線的に比例するかについては、低い確信度しか得られない」と付け加えています。
また、報告書では、大陸縁辺部の海洋堆積物や永久凍土の中や下に低温高圧で形成されるメタンの「氷」である、「クラスレート」とも呼ばれるメタンハイドレートについても取り上げています。
北極圏が急速に温暖化しているにもかかわらず、報告書は「永久凍土に埋め込まれた海底クラスレートからの実質的な排出の可能性は非常に低い」と結論づけています。したがって、クラスレートからのメタン排出が「今後数百年にわたって気候システムを大幅に温暖化させる」可能性も非常に低いと執筆者らは述べています。
その他の潜在的なティッピング要素として、報告書は「地表と水循環の密接な関連性により、アマゾンは急激な変化のホットスポットとなる可能性がある」と述べています。
森林伐採、乾燥化、森林火災の増加が重なると、熱帯雨林の生態系は「ティッピングポイントを超えて、地表面の急速な劣化、大気中の水分の再循環の急激な減少、流出する降水量の割合の増加、乾燥した気候へのさらなるシフトが起こる」と説明しています。
その結果、熱帯雨林が枯死し、恒久的なサバンナに移行することになります。
しかし、「アマゾンの乾燥と森林伐採が地域的な水循環に急激な変化をもたらすという強い理論的予想がある一方で、現在のところ、この応答を検証するモデルの証拠は限られている」と報告書は指摘しています。その結果、「2100年までにそのような変化が起こるという確信度は低い」としています。
また、北アフリカのサハラ砂漠やサヘル地域が降雨量の増加に応じて緑化する可能性については、「急激な変化をもたらす増幅メカニズムであると長い間考えられてきた」と報告書は述べています。
古気候研究により、約11,000年前から5,000年前のアフリカ湿潤期における最後の「緑のサハラ期」に関連する「時期、空間的広がり、速度の変化についての見解が改善されてきた」と執筆者らは述べています。しかし、CMIP5およびCMIP6モデルでは、その期間の「サハラ砂漠の緑化と降水量の変化の規模や空間的な広がりをシミュレーションすることはできていない」とし、この結果は、IPCCの第4次評価報告書(4th assessment report; AR4)以来、「変わっていない」としています。
これらの不確実性を考慮して、執筆者らは「2100年または2300年までにこれらの地域で緑の多い状態への急激な変化が起こるという確信度は低い」と結論づけています。
ティッピングポイントに関する調査結果を読むと身が引き締まるようですが、IPCC報告書の執筆者であるオックスフォード大学のFriederike Otto博士が、報道発表で「我々の状況は絶望的ではない」と述べたことを付け加えておくのは重要でしょう。科学者たちは、低温暖化シナリオでティッピングポイントを通過する可能性を「排除することはできない」としていますが、高温暖化シナリオと比較した場合、その可能性は「本当に最小限に抑えられる」と彼女は付け加えました。
以下の表(報告書の表4.10)は、過去のIPCC報告書からの進展を含め、潜在的なティッピング要素と急激な変化の概要を示しています。
地球システムの構成要素/ティッピング要素 | 急激な気候変化の可能性は? | 強制力が逆転したときの不可逆性(時間スケールを表示) | 温暖化が継続した場合の21世紀中の変化見通し | 評価の変化 |
---|---|---|---|---|
地球規模のモンスーン | AMOCが崩壊した場合は、ある(中程度の確信度) | 数年から数十年では可逆(中程度の確信度) | 地球規模のモンスーンが強まることに中程度の確信度;アジア、アフリカで強まり北米で弱まることに中程度の確信度 | AR5より証拠の種類が増加 |
熱帯の森林 | ある(低い確信度) | 数十年で不可逆(中程度の確信度) | 人為的攪乱によるが、植生の炭素貯留が増えることに中程度の確信度 | AR5より確信度が向上 |
北方の森林 | ある(低い確信度) | 数十年で不可逆(中程度の確信度) | 人為的攪乱によるが、低緯度側の枯死を打ち消して極側に拡大することに中程度の確信度 | AR5より確信度が向上 |
永久凍土の炭素 | ある(確信度が高い) | 確信度が高い | 凍土の炭素量の減少はほぼ確実;正味の炭素量の変化は確信度が低い | SROCCより確信度が向上 |
夏の北極海氷 | ない(確信度が高い) | 数年から数十年で可逆(確信度が高い) | 完全に消失する可能性が高い | SROCCより具体性が向上 |
冬の北極海氷 | ある(確信度が高い) | 数年から数十年で可逆(確信度が高い) | 冬の減少が中程度であることの確信度が高い | SROCCより具体性が向上 |
南極海氷 | ある(確信度が低い) | 不明(確信度が低い) | 冬と夏に中程度に減少することの確信度が低い | CMIP6でシミュレーションが改善 |
グリーンランド氷床 | ない(確信度が高い) | 数千年で不可逆(確信度が高い) | すべてのシナリオで質量損失がほぼ確実 | SROCCより証拠の種類が増加 |
西南極氷床と棚氷 | ある(確信度が高い) | 数十年から数千年で不可逆(確信度が高い) | すべてのシナリオで質量損失の可能性が高い;3℃を超える場合の見通しに深い不確実性がある | 3℃の温暖化を超える場合の深い不確実性を追加 |
地球規模の海洋貯熱量 | ない(確信度が高い) | 数百年で不可逆(確信度が非常に高い) | 海洋が温暖化を続けることの確信度が非常に高い | ECS/TCRとの整合性が向上 |
地球規模の海面水位上昇 | ある(確信度が高い) | 数百年で不可逆(確信度が非常に高い) | 上昇を続けることの確信度が非常に高い;3℃を超える場合の見通しに深い不確実性がある | 3℃の温暖化を超える場合の深い不確実性を追加 |
大西洋子午面循環 | ある(確信度が中程度) | 数百年で可逆(確信度が高い) | 減退する可能性が非常に高い;崩壊しないことの確信度が中程度 | SROCCより証拠の種類が増加 |
南方の子午面循環 | ある(確信度が中程度) | 数十年から数百年で可逆(確信度が低い) | 弱まることの確信度が中程度 | SROCCより証拠の種類が増加 |
海洋酸性化 | ある(確信度が高い) | 表層は可逆;深層は数百年から数千年で不可逆(確信度が非常に高い) | CO2が増加すれば継続することがほぼ確実;極域のアラゴナイトが不飽和になる可能性が高い | SROCCより証拠の種類が増加 |
海洋貧酸素化 | ある(確信度が高い) | 表層は可逆;深層は数百年から数千年で不可逆(確信度が高い) | 貧酸素化の速度と貧酸素水解の増加について確信度が中程度 | CMIP6でシミュレーションが改善 |
§ 大気汚染は地球の気温にどのような影響を与えるのでしょうか?
観測結果
AR6レポートでは、「短寿命気候強制因子」(short-lived climate forcers; SLCF)について1つの章を割いています。SLCFとは、エアロゾル(硫酸塩、硝酸塩、粉塵、海のしぶきなどの「粒子状物質」)や、メタン、オゾン、窒素酸化物、一酸化炭素などの「化学反応性ガス」のことです。「ほとんどの場合」、これらは大気汚染物質でもあるといいます。
エアロゾルは、放射を散乱または吸収することで地球を冷やすことも暖めることもできますが、報告書では、全体として、「人為的なエアロゾルは、エアロゾルによる負の強制力によって、1850-1900年以降の世界平均地上気温を下げている可能性が高い」としており、さらに、次のように述べています。
人為的なエアロゾルによる地表冷却の全体的な影響は、主に硫酸エアロゾルの冷却効果によって、世界の降水量を減らし、大規模な大気循環パターンを変化させることである(確信度が高い)。さらに、黒色炭素やその他の光吸収粒子の沈着による雪の黒色化が、雪融けを促進することに高い確信度がある。
下図は、主なSLCF、その発生源、大気中の寿命、1750-2019年にかけての地球への加熱効果または冷却効果を示しています。
報告書によると、SLCFの多くは数日から数週間程度の寿命しかないため、「空間的に不均質」であり、通常は排出された場所でホットスポットを形成することになります。報告書によると、過去10年間でSLCF排出の地理的分布に「強いシフト」が見られ、「2000年以降、東アジアおよび南アジアの排出量がかつてないほど増加」し、アジアが「SLCFの主要な発生源地域」となっています。
さらに、2014年の世界の人為起源二酸化硫黄(SO2)排出量の80%以上を発電所と工業が占めており、そのうち半分はアジアからのものでした。報告書では、中国のSO2排出量が2006-17年の間に70%減少したこともあり(確信度が高い)、東アジアではSO2排出量が減少しているとしながらも、南アジアのSO2排出量が「引き続き大幅に増加している」という傾向とは対照的であるとしています。
一方、欧州と北米では、1980年頃に測定を開始して以来、SO2排出量が80%減少したと指摘しています。これは、米国の大気浄化法に基づく酸性雨プログラムなどの大気質政策が実施されたためです。
同様に、二酸化窒素(NO2)の排出量は、北米、欧州、東アジアでは過去10年間に減少しましたが(確信度が高い)、南アジアでは増加し続けています(確信度が中程度)。これにより、世界全体での一酸化窒素および二酸化窒素(NOx)の排出量は増加していることになります。
2014年には、運輸部門がNOx排出量の半分、一酸化炭素(CO)排出量の4分の1を占めていました。また、COの排出量は2000年以降、世界的に減少していることの確信度が高いですが、熱帯南アメリカ、赤道アフリカ、東南アジア、オーストラリアには、バイオマスの燃焼に関連した「季節的なホットスポット」が残っているとしています。
主に農業から発生するアンモニア(NH3)の排出量は、ここ数十年、米国と欧州では横ばいまたはわずかに減少していますが、アジアでは増加していることがわかりました。一方、ハイドロフルオロカーボン(HFC)の排出量は、過去10年間で増加している(確信度が高い)としています。
将来見通し
報告書は、温暖化を食い止めるためには、「他の温室効果ガスの排出量を大幅に削減する」とともに、「CO2排出量を少なくとも正味ゼロにする」ことが必要であると指摘しています。
執筆者らは、すべての排出シナリオにおいて、SLCFの排出量の変化が、2019年の気温と比較して、2040年までに0.06℃から0.35℃の温暖化をもたらす可能性が高いと指摘しています。これは、メタンやオゾンによる温暖化とエアロゾルによる冷却が競合するためです。
SPMでは、メタンの排出量を「強力かつ迅速で持続的に削減」することで、「エアロゾル汚染の減少による温暖化効果」を抑制し、大気質を改善するという二重の効果が得られることを強調しています。
8つのSSPシナリオにおけるエアロゾル、メタン、オゾン、HFCの加熱効果と冷却効果を以下に示します。
本報告書では、SSP3-7.0を除くすべてのシナリオにおいて、2100年までに世界のSLCF総排出量が減少すると見通しています。最も大きな削減が予想されるのはSO2です。これは主に、中国の電力部門における法規制の強化、石炭使用量の減少、インドの電力部門における排出規制の強化、船舶燃料の硫黄含有量の低下によるものです。
しかし、ほとんどのシナリオでは、21世紀を通じてアンモニアの排出量が増加すると見通しています。これは、食糧需要の増加と複合して、「農業の排出量を対象とした効果的な政策が一般的に欠如している」ことが原因です。
SSP5-8.5シナリオでは、気候緩和策が限定的であると仮定し、2050年まで、特に東アジアと南アジア、発展途上の太平洋地域、アフリカの大部分で地表面のオゾンレベルが上昇し、北米、ヨーロッパ、アフリカではメタン排出量が増加すると見通しています。報告書によると、メタン排出量の変化だけで、SSP5-8.5では今世紀末までに0.14℃の温暖化が進むとしています。
しかし、SSP5-8.5は、強力な大気質政策と、それに伴う粒子状物質の減少も見通しています。そのため、今世紀を通じて最も(SLCFに関連した)温暖化が進むシナリオであり、2019年の気温と比較して今世紀末までに0.4~0.9℃の温暖化が見通され、今後100年の前半に最も急速な温暖化が予想されるとしています。
一方、SSP3-7.0シナリオでは、気候変動の緩和策はなく、地域ごとに異なる弱い大気汚染対策を想定しています。このシナリオは、参加国がHFCの段階的廃止に合意した、モントリオール議定書のキガリ改正を含まない唯一のシナリオです。
SSP3-7.0では、SSP5-8.5と同様にオゾンとNOxの排出量が増加しますが、エアロゾルの排出量は一定または増加すると見通しています。このシナリオでの(SLCFに関連した)温暖化は、エアロゾルの減少ではなく、オゾンおよび、SLCFの主役となるメタンの増加によるものです。報告書では、このシナリオでは10年ごとに0.08℃の温暖化が続くと見通しています。
一方、SSP1-1.9とSSP1-2.6は、気候と大気汚染の規制が最も厳しく、すべてのSLCFが全体的に減少すると仮定しています。これらのシナリオでは、SLCFに関連した温暖化が近未来には「最も顕著」であり、主に硫酸エアロゾルの減少が原因で、2040年までに0.04~0.34℃の温暖化に達する可能性が非常に高いと報告書は述べています。このピークの後は、メタンとオゾンの排出量の削減により、このシナリオでは全体的に冷却に向かいます。
今回の報告書では、新型コロナウイルス感染症に関するセクションも設けられており、パンデミックによってNO2排出量が13~48%減少し、エアロゾルが10~33%減少し、地表のオゾンが最大4%減少したことが指摘されています。この報告書では、世界各地のロックダウンの結果であるSLCFの変化による2020年春の放射強制力を、1平方メートルあたり0.05ワットと推定しています。
§ AR5以降、気候感度の推定値はどのように変化しましたか?
AR6 WG1の報告書では、「平衡気候感度」(equilibrium climate sensitivity; ECS)の範囲を狭めることで、将来の温暖化をより確実に見通せるようになったことが大きな特徴です。
ECSは、1896年に科学者のSvente Arrheniusが初めて推定した気候に関する重要な指標で、CO2濃度が産業革命以前の2倍になった場合に世界がどれだけ温暖化するかを示しています。
(現在の大気中のCO2濃度は、産業革命以前に比べてすでに約50%増加しています。)
何十年にもわたる集中的な研究にもかかわらず、ECSは頑ななまでに不確かなままでした。しかし、AR5以降、「かなりの定量的な進歩」が見られ、AR6レポートでは、中央推定値を3.0℃とし、可能性の高い範囲を2.5~4℃とし、非常に可能性の高い範囲を2~5℃としています。
これは、AR5の推定値である可能性の高い範囲1.5~4.5℃、非常に可能性の高い範囲1~6℃よりもはるかに狭い範囲となっています。
重要なのは、AR6のWG1が、ECSが1.5℃より大きいことはほぼ確実であり、「すべての証拠が、より低い値を排除するのに役立つ」と述べていることです。これは、昨年発表されたECSに関する主要な研究結果と同じです。
この結論は、危険な温暖化を回避しようとする試みが、排出量削減のためにより時間的余裕があったはずの低い気候感度を頼みにすることができないことを意味しています。
AR6では、可能性が非常に高いと推定される感度の範囲の上限も下げていますが、「現在のところ、ECSの値が5℃を超えることを排除することはできない」としています。その結果、AR6では、感度が5℃より低くなるとの確信度は中程度であるのに対し、範囲の下限については高い確信度を持っています。
ECSの推定値の経年変化を下図に示します。左端(グレーのバー)が、1979年に全米研究評議会が「CO2増加の影響」に関する「コンセンサス」の立場を確立するために招集した研究グループの成果である、チャーニー報告書の範囲です。右側の棒グラフは、1990年の最初のIPCC報告書(「first assessment report; FAR」、水色)から右の最新のAR6の範囲(赤色)まで、IPCCの各報告書を順に示しています。
図の中で、中心となる推定値がある場合には、それを点で示しています。色のついたバーはECSの推定された可能性が高い範囲を示し、非常に可能性の高い範囲はヒゲで示されています。
2Highchartsまた、AR6では、「過渡的気候応答」(transient climate response; TCR)の可能性が高い範囲を1.4~2.2℃に狭め、最良推定値は1.8℃としています。これに対し、AR5では可能性が高い範囲が1~2.5℃でした。
TCRは、年率1%で徐々にCO2が増加してCO2が2倍になった後、地球がどの程度温暖化するかを示す、少し異なる指標です。
ECSが、CO2濃度が数百年間ずっと同じ2倍のレベルであった後の最終的な温暖化を示すのに対し、TCRは、今世紀中にCO2が2倍になった場合に予想される温暖化のよりよい指標になります。
TCRがECSよりも低いのは、温室効果による過剰な温暖化の大部分を吸収する海洋が、大気中に熱を再分配した後にゆっくりと「平衡」に達するからです。
注目すべきは、AR6の気候感度の推定値が気候モデルに直接依存していないことです。これは、「主要な証拠」としてのモデルにほとんど依拠していた、これまでの推定値とは対照的です。
その代わりに、AR6では、過去の温暖化の観測結果、過去の気候の証拠(「古気候」データ)、気候プロセスの物理的理解、「創発的な制約(emergent constraints)」を利用しており、次のように説明しています。
重要な進歩は、これらの複数の証拠に概ね一致が見られたことだ。…AR6がこれまでの報告書と異なるのは、気候感度の範囲の評価に、気候モデルによるECSとTCRの推定値を直接用いていないことである。
AR6におけるECSの結論を裏付ける一連の証拠は、報告書のFAQ7.3(pdf)に詳しく記載されており、また2018年に発表された気候感度に関するCarbon Briefの解説にも記載されています。
気候感度の推定値に大きな幅があるのは、気候フィードバックの不確実性が原因です。これは、CO2レベルの上昇による温暖化を増幅したり抑制したりするプロセスのことで、それぞれ正のフィードバック、負のフィードバックと呼ばれています。
フィードバックには、海氷が融けて反射率の低い(「アルベド」の低い)海が余分な熱を吸収するといった物理的なプロセスや、地域的な雲の構造の変化などが含まれます。
また、気候の変化に伴う植生パターンの変化がアルベドに影響を与えるなど、「生物地球物理学的」および「生物地球化学的」なフィードバックも定量的に示されています。
最も重要なのは、炭素循環フィードバックであり、これについては別途議論します。(参照:今後、地球はどのくらい暖かくなるのですか?)
定義によれば、ECSはCO2が2倍になった後の温暖化ですが、炭素循環フィードバックはCO2の濃度をさらに増加(または減少)させるものです。
AR6では、すべてのフィードバックの複合的な効果が、温室効果ガスの排出やその他の「気候強制力」による温暖化を、増幅させることがほぼ確実であるとしています。
AR6がECSをより狭く見積もっている背景には、それぞれの強制力によってどれだけの温暖化が引き起こされるかについての科学者の理解が徐々に進んできたことと、雲のフィードバックの強さを定量化する能力がより大きく飛躍したことがあります。
報告書の第7章に掲載されているFAQでは、この点がなぜ重要なのかが次のように説明されています。
気候科学における最大の課題の1つは、温暖化した世界で雲がどのように変化するかを予測し、その変化が温室効果ガスの濃度上昇やその他の人間活動による温暖化を増幅するのか、あるいは部分的に相殺するのかを予測することだった。科学者による研究は過去10年間に大きな進歩を遂げ、現在では、雲の変化が将来の地球温暖化を相殺するのではなく、増幅することをより確信している。
下の図は、雲に含まれる水滴の数の増加によるわずかな負のフィードバックがあるにもかかわらず、雲がより高く、低層雲がより少なくなる結果、雲が将来の温暖化を増幅することが、高い確信度で予想されていることを示しています。
本報告書では、雲のフィードバックの最良の推定値として、摂氏1度あたり1平方メートルあたり+0.42ワット(W/m2/℃)、可能性の高い範囲として-0.10~+0.94W/m2/℃を示しています。これは、AR5で示された(pdf)最良の推定値と範囲である+0.60(-0.20~+2.0)W/m2/℃に引けを取りません。
したがって、雲のフィードバックに関する不確実性は、理解の「深化」、「観測の向上」、雲のプロセスの高解像度シミュレーションにより、AR5と比較して約50%削減されたと報告書は述べています。
また、雲のフィードバックの推定値と、観測結果から直接推測される値との間には「一致」が見られるとしています。
フィードバック全体の不確実性のうち、雲が最大の部分を占めていることは高い確信度がありますが、AR6では、将来の温暖化を抑制するような雲の負のフィードバックが発生する可能性は非常に低いと考えられています。
この結果は、AR6の報告書が発表される数週間前に発表された、衛星観測に基づく雲のフィードバックに関する重要な研究結果と完全に整合しています。
最後に、AR6では、気候のフィードバックが時間の経過とともにより強力になり、地球の温暖化をさらに増幅させることが高い確信度で予想されることを強調し、次のように説明しています。
フィードバックプロセスは、地表面の温暖化の空間的パターンが変化し、地表面温度が上昇するにつれて、数十年単位の時間スケールで全体的により正の値をとるようになる(地表面温度の変化をより増幅する)と予想される。
地球システムの状態や温暖化の空間的パターンに応じて、気候のフィードバックが変化する可能性は以前から認識されていましたが、「将来の温暖化見通しへの影響が調査されたのはごく最近のこと」だと報告書は述べています。
この新しい理解は、1870年以降の温度計による温暖化の記録に基づくECSの推定値が、AR6で提示された範囲に比べて低すぎる理由を説明するのに役立ちます(確信度が高い)。
§ 報告書では、残余カーボンバジェットについてどのように述べられていますか?
カーボンバジェットとは、地球温暖化を1.5℃のようなレベルに抑えたいと考えた場合に、大気中に追加で排出できる量を簡易的に測定する方法です。これは、温暖化の生じる大きさは、CO2の総排出量、つまり累積排出量に近似しているという事実に基づいています。
しかし、実際にはカーボンバジェットは多くの複雑な要素を覆い隠しています。世界はすでに1.5℃の温暖化に至る道をほとんど進んできているため、残りのバジェットは比較的少なく、そのため使用するアプローチにかなり敏感です。2018年のSR15レポートでは、AR5で報告されたものと比較して、カーボンバジェットが大幅に拡大されました。
これは主に、過去の温暖化を推定するために、気候モデルの見通しではなく観測値を使用したことによるものです。さらに技術的な詳細については、Carbon Briefの分析をご覧ください。
AR6レポートでは、1.5℃と2℃に対する残余カーボンバジェットに関する最新情報が提供されています。SR15と比較すると、アプローチの更新は「小さな」ものにとどまっていると執筆者らは述べています。
これまでの報告書以降の排出量について調整を施した場合、残余カーボンバジェットの推定値はSR15と比べると同程度であるが、方法論の改善によりAR5と比べると大きくなっている。
下の図は、2021年1月1日時点で、産業革命前と比べて1.5℃以上の温暖化を回避する確率が50%の場合と66%の場合の、SR15(灰色の棒グラフ)とAR6(青色の棒グラフ)の残余カーボンバジェットを示しています。
これらは、SR15のバジェット(2018年からの残りの許容バジェットを示す)から2018-20年の間に観測された世界の排出量(Global Carbon Projectによって報告されたもの)を差し引き、AR6バジェット(2020年からのバジェットを示す)から2020年の観測排出量を差し引いて算出されたものです。
Global Carbon Project2HighchartsSR15とAR6両方において、1.5℃を50%で回避する場合、世界には約4,600億トンのCO2(460GtCO2)のバジェットが残っているとしています。これは、現在(2020年)の排出量では、わずか11.5年で残余カーボンバジェットを使い果たしてしまうことを意味します。世界の多くの地域で新型コロナウイルス感染症関連の規制が緩和された後の2021年に世界の排出量が(予想通りに)リバウンドし、今後10年間減少しない場合は、それよりも短くなる可能性があります。この場合、世界は2031年頃に1.5℃の気温上昇を約束されることになり、これはAR6で発表された超過日の最良推定値とほぼ同じです。
温暖化を1.5℃に抑える確率が66%の場合、AR6では世界に残されたカーボンバジェットは360GtCO2、つまり現在の排出量の9年分に相当すると報告しています。これは、SR15のカーボンバジェットである295GtCO2から大幅に増加しています。
66%の回避確率においてカーボンバジェットが増加したのは、AR6報告書で算出された「累積炭素排出量に対する過渡的気候応答」(transient climate response to cumulative carbon emissions; TCRE)の値がSR15(炭素排出量1,000GtCあたり0.8℃~2.5℃)よりも狭く(1,000GtCあたり1.0℃~2.3℃)なったためであり、これはAR6の気候感度の推定値が狭くなったことに起因しています(参照: AR5以降、気候感度の推定値はどのように変化しましたか?)
今回のTCREの改訂は、TCREの最良推定値が1,000GtCあたり1.65℃と変わらないため、50%の回避確率には影響しません。
報告書によると、「残余カーボンバジェットの正確な値」には、「過去の温暖化の推定値、永久凍土の融解による将来の排出量、CO2以外による温暖化の見通しの変動」など、他にもいくつかの要因が影響しています。
しかし、「これらの不確実性は、地球温暖化を食い止めるためには、世界のCO2排出量を少なくとも正味ゼロにする必要があるという基本的な結論を変えるものではない」と指摘しています。
(Carbon Briefは、AR6のカーボンバジェットと温暖化の閾値について、より詳細な記事をまもなく発表する予定です。その記事では、バジェットの算出方法の変更についても触れています。)
SR15とAR6では、1.5℃のカーボンバジェットに加えて、2℃のカーボンバジェットも提供されています。2021年に始まるものとして計算されたカーボンバジェットが下図に示されています。
Global Carbon Project2HighchartsAR6では、50%の確率で2℃を回避できる場合の残余カーボンバジェットを、SR15の1,375GtCO2(現在の排出量の34年分)から1,310GtCO2(現在の排出量の33年分)へと、わずかに減少させています。これは、現在の排出量を継続した場合、世界が2℃の炭素予算を使い果たしてしまうのが2053年頃であることを示唆しており、これは控えめな緩和策をとるSSP2-4.5の超過年である2052年に大変近い見通しとなっています。
温暖化を2℃より十分低く抑えるというパリ協定の目標は、2℃を66%の確率で回避することと解釈されることがよくありますが、これに対しては、AR6では残余カーボンバジェットを1,045GtCO2(現在の排出量の26年分)から1,110GtCO2(現在の排出量の28年分)へと若干増やしています。これは、AR6のTCREの値がSR15のレポートと比較して更新されたことを反映しています。
§ 「ネット·ゼロ」についてはどのように述べられていますか?
AR5が発表されて以来、「ネット·ゼロ」(CO2排出量の大部分を削減し、残存する排出量を炭素除去技術によって相殺する)という概念が、気候緩和の指針として浮上しています。
2015年のパリ協定では、署名国は「今世紀後半に」温室効果ガスの排出量と吸収量を「均衡」させることを約束しました。この文言は、排出量を正味ゼロにすることを意味すると広く受け取られていますが、IPCCは2018年に発表した「1.5℃特別報告書」でこの文言により強い裏付けを与えました。
同報告書によると、温暖化を「オーバーシュートなし、または限定的なオーバーシュートのみ」で1.5℃に抑えるためには、世界の正味CO2排出量を2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年頃までに「ネット·ゼロ」にする必要があるとしています。
2019年、英国は主要経済国として初めて、法的拘束力のあるネット·ゼロ目標を設定しました。それ以降、多くの国がネット·ゼロ目標を設定したり、そのための政策を策定したりしています。
新しい報告書では、「さらなる気候変動を抑制するには、GHG排出量の大幅かつ持続的な削減が必要である」と強調し、次のように付け加えています。
CO2排出量を正味ゼロにし、正味の非CO2強制力を減少させなければ(あるいは正味の非CO2強制力によるさらなる温暖化を相殺するのに十分な正味のマイナスCO2排出量がなければ)、気候システムは温暖化し続けるだろう。
言い換えれば、温暖化を止めるためには、CO2排出量を正味ゼロにした上で、他の温室効果ガスも削減し、さらに(もしくは)CO2を除去して温暖化の影響を相殺する必要があるということです。IPCC WG1の共同議長であるValérie Masson-Delmotte博士は、報告書の発表時に次のように述べています。
今回の報告書では、人間活動による大気へのCO2の累積排出量と、これまで観測され将来に見通される温暖化の大きさとの間に、ほぼ直線的な関係があることが再確認されました。これは物理学です。つまり、地球温暖化を抑制するには、地球規模でCO2の排出量を正味ゼロにするしかないということです。CO2の排出量が1トン増えるごとに、地球温暖化が進むのです。
報告書では、AR5以降の気候モデル実験では、すべてのCO2排出が停止した後の温暖化は「小さく」、「10年単位の時間スケールで0.3℃未満の可能性が高い」ことが確認されていると指摘しており、さらに次のとおり述べています
SR15と整合的に、1.5℃または2℃の地球温暖化レベルに対する残余カーボンバジェットの評価では、(CO2排出が停止した後の温暖化の)中央推定値はゼロとされている。
(Carbon Briefによる最近の解説では、CO2排出量が正味ゼロになると温暖化がほぼ止まると見込まれる一方で、温室効果ガスが正味ゼロになると実際には地球の気温がわずかに下がることになる理由が説明されています。)
IPCCの執筆者であるリーズ大学のPiers Forster教授は、報道会見の中で、この点を報告書の「良いニュース」の要素の一つとして説明し、次のように述べています。
私たちは、近い将来の排出削減により、前例のない気温上昇の速度を実際に下げうることに強い確信をもつことができます。…また、もうひとつの大きなニュースは、ネット·ゼロが地表の温度を安定させる、あるいは下げるのに有効であることを、この報告書が科学的かつ頑健な方法で示していることです。
報告書では、シナリオSSP1-1.9とSSP1-2.6は、「CO2排出量が2050年頃またはそれ以降にネット·ゼロまで減少し、その後、さまざまなレベルでCO2排出量がネット·マイナスになる」ことと整合するとしています。
しかし、IPCC報告書の執筆者であるインペリアル·カレッジ·ロンドンのグランサム研究所のJoeri Rogelj博士は、同じ会見で、現在の世界の排出量の軌道はこの両方を上回っていると警告しました。同博士は次のように述べています。
もし、現在誓約されているもの(世界的な排出量削減)が実行されるのであれば、SSP2-4.5に従うことになります。しかし、誓約されたものすべてがすでに実践や政策に移されているわけではないことを考えると、我々はむしろSSP2-4.5とSSP3-7.0のシナリオの間のどこかを通っている状況です。
また、高排出経路のいずれかではなく、SSP1-1.9またはSSP1-2.6に乗っている場合、「約20年以内に地球表面温度のトレンドに目に見える違いが生じる」と指摘し、Rogelj博士はこう付け加えました。
今日の私たちの活動は、私たちの住む地球を変えてきましたし、今も変え続けています。そして、私たちの活動と選択が、次の10年、そして次の数百年の間に私たちがどこにたどり着くのかを決定することになるでしょう。そして今、私たちはこれまで以上に、何をすべきかを理解しています。
ネット·ゼロを達成するためには、大気中のCO2を大規模に除去することが重要なポイントとなります。これはおそらく、ネット·ゼロ目標の中でも最も議論の多い点です。
二酸化炭素除去(carbon dioxide removal; CDR)は、ネガティブ·エミッションとも呼ばれ、大気中の二酸化炭素を意図的に除去し、「地層、陸域、海洋の貯留層、または製品」に貯留するためのさまざまな技術を包含していると報告書は述べています。これらの技術には、森林再生、土地利用の変化、その他の生態系に基づくアプローチなどの「自然に基づく解決策」と、大気からの直接回収や炭素回収貯留を伴うバイオエネルギー(bioenergy with carbon capture and storage; BECCS)などのより工業的なプロセスが含まれます。
報告書では、CDRが「大気中のCO2を除去し、貯留層に持続的に貯留する可能性を持っている」と高い確信度で指摘しています。
地球温暖化を1.5℃または2℃に抑えるための排出経路では、「典型的に、GHG排出量の削減とCDRアプローチの併用が想定される」と報告書は述べており、CDRは、「脱炭素化が難しい、あるいはコストのかかるセクターからの残留排出量を補う」ために使用できると説明しています。
また、CDRは「大規模に実施することで、地球全体のCO2排出量を正味でマイナスにすることができる」とし、その結果、「人為的なCO2除去量が人為的な排出量を上回る」としています。これにより、「気温がオーバーシュートした後に長期的な気候安定化目標を達成する方法として、それ以前の排出量を補うことができる」と述べています。
しかし、報告書は、「CDR法には、炭素貯留や冷却のポテンシャルを弱めたり強めたりするさまざまな副作用があり、持続可能な開発目標の達成に影響を与える」と高い確信度で指摘してもいます。
さらに、「CDRの展開、特に陸地での展開は、水の質と量、食料生産、生物多様性にも影響を与える可能性がある」と、これも高い確信度で述べ、これらの影響は、「地域の状況、管理体制、先行の土地利用や規模に大きく依存することが多い」としています。
CDRはまた、特に「自然の生態系を回復させたり、土壌の炭素隔離を改善したりする手法」との間で、コベネフィットをもたらす可能性があると執筆者らは述べています。
執筆者らは、「CDRオプションの生態学的および社会経済的側面の包括的な評価は、WG2およびWG3の報告書に委ねられている」と述べつつこう付け加えています。
仮に世界全体でCO2のネット·マイナスを達成し、それを持続させた場合、CO2による地表温度の上昇は徐々に反転するが、その他の気候変動は数十年から数千年にわたって現在の方向性を維持するだろう(確信度が高い)。
例えば、大規模なCO2のネット·マイナス排出の下でも、世界平均海面水位の軌道が反転するには数百年から数千年かかるだろう(確信度が高い)。
§ 極端気象はどのように変化していますか、そして気候変動はどのような役割を果たしているのでしょうか?
AR6報告書の第一弾は、世界各地で致命的な極端気象が発生し、国際的なニュースになったことに続いて発表されました。
2021年半ばには、太平洋岸北西部での記録的な「ヒートドーム」、米国西部と欧州での山火事、欧州と中国での壊滅的な洪水、インドでの降雨による地滑りなどが発生しています。
それにふさわしく、今回の報告書では、初めて極端気象に関する章(pdf)が設けられています。
(この章については、Carbon Briefが詳細な記事を掲載済みです。)
IPCCの第5次評価報告書(AR5)が発表された2013-14年以降に、「気象と気候の極端現象に関する重要な新展開と知識の進歩があった」と今回の報告書は述べています。具体的には、「個々の極端現象に対する人間の影響、干ばつ、熱帯低気圧、複合的な現象の変化、異なる温暖化レベルでの見通し」が含まれます。
例えば、アトリビューション研究は、「気候研究の成長分野として登場し、文献も増えている」とAR6報告書は述べています。これらの研究は、人為的な気候変動やその他の要因が、極端気象の頻度や強度に影響を与えているかどうか、またどの程度影響を与えているかを評価するものです。
観測結果
本章の要旨では、人為的に排出された温室効果ガスが、「いくつかの気象と気候の極端現象の発生頻度や強度の増加につながっている」ことは「確立された事実」であるという結論が示されています。
この「確立された事実」という言葉は、IPCCの不確実性に関して調整された「可能性の記述」の一つではありません。IPCCのガイダンスでは、「場合によっては、証拠や理解が圧倒的に優れている知見を、不確実性の修飾語を使わずに事実の記述として表現することが適切な場合もある」と説明されています。
AR6報告書では、「1950年以降、地球規模で極端な高温の頻度と強度が増加し、極端な低温の頻度と強度が減少している」ことはほぼ確実であるとしています。
また、人為的な温室効果ガスの排出が「主な要因」であることもほぼ確実であるとしています。ちなみにAR5では、この可能性は非常に高いと結論づけられていました(pdf)。
最近のアトリビューション研究の結果を反映して、報告書では「最近のいくつかの極端な高温現象は、人間が気候システムに影響を与えなければ発生する可能性は極めて低かっただろう」と指摘しています。
また、大雨については、「観測データが十分にある陸地の大部分で、その頻度と強度が地球規模で増加している可能性が高い」と結論づけ、人間活動の影響が主な要因である可能性が高いとしています。
報告書は、観測された洪水と干ばつの変化はあまり明確ではないと指摘し、その理由は、これらの事象を定義する方法が1つではないことと、どちらも「水文学、気候、人間の管理が複雑に絡み合っている」からであるとしています。
それでも執筆者らは、気候変動が「蒸発散量の増加により、陸地の大部分で乾季に利用可能な水の量の減少に寄与している」と中程度の確信度で結論づけています。
また、洪水については、「過去数十年間の世界規模でのピーク流量の傾向についての確信度は低い」としながらも、「アジアの一部、南米南部、米国北東部、欧州北西部、アマゾンなど、増加している地域と、地中海の一部、オーストラリア、アフリカ、米国南西部など、減少している地域がある」と指摘しています。
熱帯の暖かい海水域で発生する強力な暴風雨である熱帯低気圧について、報告書は「過去40年間で、強い熱帯低気圧の割合と急激な強まりが起こる頻度は、いずれも世界的に増加している可能性が高い」としています。
これを、AR5が「観測能力の過去の変化を考慮しても、熱帯低気圧活動の長期的(100年単位)な変化については依然として確信度が低い」と結論づけたこと(pdf)と比較すると違いがわかります。
§ 将来見通し
今後の見通しとしては、AR6報告書では、「極端な気候の強さと頻度の地域的な変化は、一般的に地球全体の温暖化に対応する」として、さらに以下のように付け加えています。
新たな証拠は、比較的小さな温暖化の増分(+0.5℃)でも、地球規模および大規模な地域での極端現象に統計的に有意な変化をもたらす(確信度が高い)という(1.5℃特別報告書の)結論を強化するものである。
これは特に、「極端な気温(可能性が非常に高い)、大雨の強化(確信度が高い)、熱帯低気圧に伴う大雨の激化(中程度の確信度)、いくつかの地域での干ばつの悪化(確信度が高い)」に当てはまるとしています。
以下の地図は、IPCCが発表した1.5℃(左)、2℃(中)、4℃(右)の温暖化による年間最高気温(上)と年間最低気温(下)の見通しを示したものです。
濃淡は変化の大きさを示しており、赤が濃いほど上昇幅が大きいことを示しています。報告書では、「1.5℃の温暖化レベルでも、極端な高温と極端な低温の大きな温暖化が起きる」と指摘しています。
この地図を見ると、年間の最低気温の温暖化見通しが最高気温のものよりも大きく、赤道よりも極地でより強い温暖化が見られることがわかります。
例えば、北極圏では、「最も寒い夜の気温の温暖化速度は、地球全体の温暖化速度の約3倍になる」としています。中緯度地域では、「極端な高温の温暖化の速度は、地球温暖化の速度の2倍にもなる」としています。
気温の上昇は、「干ばつの頻度や深刻度の増加の影響を受ける陸地の面積」が拡大することを意味すると、報告書は高い確信度で付け加えています。
大雨の変化については、1.5℃(左)、2℃(中)、4℃(右)の温暖化のもとでの年間最大日降水量の将来見通しを以下の地図に示しました。陰影は増加(緑)と減少(茶)を示し、斜線は気候モデル間の一致が少ない部分を示しています。
これらの地図の空間的パターンは「非常によく似ており」、「地域規模での極端な降水量と地球温暖化レベルとの間には、ほぼ直線的な一致が見られる」と報告書は述べています。
極端な降水量は、季節によっては地中海沿岸のヨーロッパ南部など、ごく限られた地域を除いて、ほぼ常に陸域全体で増加し、温暖化レベルが高くなるほど増加量が大きくなる。
極端な降水量の減少見通しのほとんどは「亜熱帯海洋地域」に限られており、「ストームトラック(低気圧経路)の変化による平均降水量の減少と高い相関関係がある」と報告書は述べています。
熱帯低気圧については、報告書は高い確信度で、「地球温暖化の進行に伴い、強い熱帯低気圧の割合、熱帯低気圧の平均ピーク風速、最も強い熱帯低気圧のピーク風速は地球規模で増加する」と結論づけています。
また、中程度の確信度で、「地球規模での熱帯低気圧の発生頻度は、温暖化が進むにつれて減少する、あるいは変化しない」としています。
§ 気候変動のリスクは世界各地でどのように異なるのですか?
IPCCによると、AR6報告書では、これまでの評価に比べて「地域的な気候変動にはるかに大きな重点を置いている」とのことです(pdf)。その一つがWG1の第12章で、「WG1の解決策への貢献の一環」として、地域的な影響やリスクの評価のための気候変動情報を提供しています。
もう一つは、オンラインのインタラクティブな「アトラス」です。これには「地域情報コンポーネント」があり、「報告書で使用されている主なデータセットからの気候変動情報へのアクセスを提供する」としています。
本報告書のSPMには次のように書かれています。
地球温暖化がさらに進むと、すべての地域で、気候的な影響駆動要因の同時かつ複数の変化がますます大きくなると見通される。いくつかの気候的な影響駆動要因の変化は、1.5℃の地球温暖化と比較して2℃ではより広範囲に及び、より高い温暖化レベルではさらに広範囲かつ顕著になるだろう。
下の図は、1995-2014年と比較して、2041-60年までに高い確信度で見通される各地域の気候変動による影響をまとめたものです。赤は増加を、青は減少を示しています。
主な地域別の影響としては、以下のようなものがあります。
アフリカ
ストレスレベルと致命的な気温がより頻繁に発生する可能性が非常に高い」としています。また、赤道直下の地域では、熱に加えて湿度も高いため、特にリスクが高いとしています。
一方、アフリカのほとんどの地域では、洪水を引き起こす可能性のある大雨が増加する(確信度が高い)としていますが、北アフリカと南部アフリカの一部の地域では、大陸の大部分で火災の発生、農業の干ばつ、生態学的な干ばつが増加すると予想されています(確信度が高~中程度)。
SPMは次のように付け加えています。
モンスーンの降水量は、地球規模では中長期的に増加すると見通されており、特に南アジア、東南アジア、東アジア、サヘルの最西部を除いた西アフリカで、増加すると見通される(確信度が高い)。
アジア
「アジアのほとんどの地域で、極端な降水量、平均降水量、河川の氾濫が増加するという確信度は中程度である」と報告書は述べています。気候の温暖化に伴い、中国全域で河川の洪水が増加し、南アジアのモンスーンが強まるだろうと付け加えています。
報告書によると、東部ヒマラヤでは洪水と地滑りが最も頻繁に発生する自然災害であり、特にモンスーン季の集中豪雨が原因となっています。また、気候の温暖化に伴い、降水強度の増加や永久凍土の融解により、台湾北部や中国の一部を含む地域で地滑りが発生するとしています。
高山地帯のアジアは、その広大な雪と氷の量から地球の「第三の極」とも呼ばれていますが、融雪パターンが変化し、春の洪水の時期が早まる可能性があると報告書は述べています(確信度は中程度)。
また、アジアの多くの地域(特に南部)では、危険な熱ストレスの閾値を超える頻度が高くなるとしています。
オーストラレーシア
2019-20年にオーストラリア南東部で発生した「前例のない」火災は、世界中で大きな話題となりました。報告書によると、これらの火災は「平均よりも著しく乾燥した極端な高温·乾燥天候」によって引き起こされたとし、気候の温暖化に伴い、火災につながる天候、特に「極端な火災とそれにより誘発された熱い大気の対流」に関連した火災気象はオーストラリアの大部分とニュージーランドの大部分で増加すると付け加えています。
報告書によると、オーストラリア南部および東部では降雨量が減少しますが、オーストラリア中央部および北東部では降雨量が増加し、洪水の発生が増加します。一方で、オーストラリア大陸全体で、より頻繁に極端な暑さが発生するとし、次のように述べています。
農業や健康に影響を及ぼす可能性のある35℃や40℃といった暑さのしきい値も、オーストラリアでは21世紀にかけてより頻繁に超えるとすべてのRCPの下で見通されている。
中央·南アメリカ
南米には、世界最大の熱帯雨林であるアマゾンがあります。報告書によると、アマゾンは南アメリカにおける2つの「乾燥ホットスポット」の1つであり、来世紀にかけて農業および生態系の干ばつや乾燥が増加するとしています。また、今後の温暖化にかかわらず、21世紀のアマゾンは世界で最も高い「火災気象指標」を持つことになると高い確信度で述べています。
報告書によると、2100年までに中南米のほとんどの地域で異常な暑さが「はるかに頻繁に」発生するとしています。
報告書では、将来の降雨量の変化は大陸全体で異なるとしています。しかし、アンデス山脈の氷河の融解と永久凍土の融解により、将来の温暖化シナリオのすべてにおいて河川の流量が減少し、「大規模な氷河湖の決壊による洪水」が発生する可能性があると付け加えています。また、海面上昇が続くと、低地の沿岸部で洪水が発生する可能性があります。
ヨーロッパ
報告書によると、ヨーロッパ全域で極端な暑さがより頻繁に起こるようになり、南に向かって「増える勾配」になることが予想されます。一方、河川の洪水は、中央および西ヨーロッパでは増加し、北、東、南ヨーロッパでは減少するとしています。
ヨーロッパのアルプスやスカンジナビアでは、氷河の融解がさらに進み、永久凍土の融解が進むと予想されています。さらに、こうも書かれています。
北欧の周氷河のほとんどは、排出量が少ないシナリオでも今世紀末までに消滅するだろう。
また、気温の上昇と降水量の減少が相まって、地中海沿岸地域の乾燥化が進むことを指摘し、2℃以上の温暖化により、同地域の農業、生態系、河川流量の干ばつが増加することを付け加えています。さらに、報告書では、地中海全域で火災気象が増加すると予測しています。
また、気候の温暖化に伴い、海面上昇と極端降雨現象が組み合わさって発生する複合的な洪水現象が、北欧の海岸沿いで特に多発するだろうと強調しています。
北アメリカ
北米では、森林火災のリスクが高まっていることが報告されています。2000年から15年の間に、気候変動によって米国西部で樹木が燃料となりやすい乾燥状態にさらされる森林面積が75%増加し、1年に9日ずつ「火災の可能性が高い」日が増えていると報告書は指摘しています。また、温暖化が2℃を超えた場合、北米の火災シーズンは「劇的に拡大する」としています。
また、北米で発生する熱帯低気圧や激しい風、砂塵の嵐も「より極端な特徴にシフトしている」と付け加えています。一方、メキシコや米国のメキシコ湾岸および大西洋岸では、風速が強く、降水量が多く、高潮を伴うより激しい暴風雨が発生すると指摘しています。
小さな島々
このセクションでは、小さな島国、特にカリブ海と太平洋に浮かぶ島々を取り上げています。報告書では、海面上昇は小さな島々にとって「大きな脅威」であり、「低地にある沿岸のコミュニティやインフラ、生態系、淡水資源に対する他の気候災害の影響を悪化させる」可能性があると指摘しています。
2100年までに、RCP4.5とRCP8.5の両シナリオにおいて、すべての小島において中央推定値で100メートル以上の海岸線の後退が見通されています。また、カリブ諸島は特にリスクが高く、両RCPの下で、2010年と比較して200メートルに迫る海岸線の後退が見通されると強調しています。
また、熱帯低気圧は強風のために小さな島々に「壊滅的な影響」を与えるとしています。報告書によると、気候が温暖化すると、暴風雨は一般的に頻度が減りますが、強度は増します(確信度が中程度)。海面温度の上昇により、カリブ海での熱帯低気圧の強度が増し、海面水位の上昇により高潮の可能性が悪化します。しかし、「低気圧の経路が地域的にシフトする見通しがあるため、小さな島々の間で大きなばらつきが」あるだろうと、報告書は付け加えています。
(国立環境研究所 訳)。